2026年1月2日金曜日

【読書感想文】浜口 桂一郎『新しい労働社会 雇用システムの再構築へ』 / 思いつきで制度を変えるな

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新しい労働社会

雇用システムの再構築へ

浜口 桂一郎

内容(e-honより)
正規労働者であることが要件の、現在の日本型雇用システム。職場の現実から乖離した、その不合理と綻びはもはや覆うべくもない。正規、非正規の別をこえ、合意形成の礎をいかに築き直すか。問われているのは民主主義の本分だ。独自の労働政策論で注目される著者が、混迷する雇用論議に一石を投じる。

 2018年刊行。積読をしているとままあることだが、なんで買ったのか自分でもわからない本。

 読んでみて、その謎がさらに深まった。なんで買ったんだろう……。

 ぼくははるか昔の学生時代、労働法研究のゼミに所属していたのだが、そのときに読んだ本のことを思い出した。めちゃくちゃ固い本だった。なんで研究者でも労務担当者でもないのに買ったんだろう……。



 派遣業について。「登録型派遣事業」というのはいわゆる一般的な派遣事業で、働いた月だけ派遣元企業から賃金が出て、働かなかったとき(仕事がないとき)は賃金が出ないというスタイルだ。

 この派遣業、やたらと目の敵にする人がいる。諸悪の根源は派遣業だとでも言わんばかりに。人身売買とまで言い出す輩もいる。

 かねてから労働界に根強いのが登録型派遣事業禁止論です。これはかつてのドイツの仕組みであるとともに、日本政府が当初検討した案でもあり、それ自体としては筋の通った議論ではあります。ただ、すでにドイツも捨てた過去の制度に固執するには、それなりの理由が必要でしょう。
 あたかも登録型派遣事業を禁止すれば労働者はすべて常用雇用になるかのような議論も存在しますが、いうまでもなく日本の労働法制は有期雇用契約をほとんど規制していませんから、「派遣切り」が「有期切り」に姿を変えるだけです。判例法理でも、有期契約を単に反復更新しただけでは無期契約と同等と見なされるわけではありません。むしろ、有期労働者の雇止めがほとんど規制なしに行えるのが日本の現状です。
 そもそも、市場経済においては労働力需要が増大したり減少したりすることはごく普通のことです。その増減に対応して臨時的に労働者を活用したりそれを停止したりすることも、本来的に禁止されるべきことではありません。世界中どこでも、一時的臨時的雇用を禁止している国はありません。問題があるのは、本来労働力需要自体は恒常的に存在するのに、つまり無期契約で雇用することが自然であるにもかかわらず、解雇規制をすり抜ける目的でわざと有期契約にしておき、必要のある限り更新に次ぐ更新を重ねておいて、いざというときにはその期間満了を装って実質的に解雇しようとすることなのです。

 そうなのよね。悪い派遣業者がいるのは事実だが、派遣業自体は何ら悪くない。派遣で働きたい人と、派遣社員を雇いたい企業がいるのだから、派遣のような有期雇用契約が生まれるのは当然のことだ。

 世の中には、繁忙期と閑散期がある仕事がある。たとえば農業従事者が農閑期である冬場だけ有期で働きたいと考えるのは当然だ。建設業なんて、大きな仕事を受注すればその間は人手が必要だが、案件のないときに社員を大勢抱えていたら会社がつぶれてしまう。

 世の中にいろんな仕事があることを知れば、調整弁となる派遣社員が必要不可欠だとわかるとおもうんだけど。2008年頃の「派遣切り」のイメージが強すぎて、派遣と聞いただけで脊髄反射で拒否反応を示してしまう人がけっこういるんだよね。



 今はすっかりなりをひそめたけど、2000年前後の頃って「終身雇用制・年功序列制をとっているから日本の企業はだめなんだ」という言説をよく聞いた(そういうやつはどうせ日本経済の調子が良かったときは「日本型雇用システムがあるから日本経済は強いんだ」とか言ってたんだろうな)。

 九〇年代から二〇〇〇年代にかけてのさまざまな改革は、それまでの日本社会のあり方がそのままでは持続可能ではないという認識に基づいていました。そのこと自体は一定の根拠のある判断であったと思われます。問題は、社会システムはそのさまざまな要素がお互いに支え合って成り立っており、一見不合理に見えるある要素を不用意に取り除くことが他の部分に好ましくない影響を与えることがあり得るという認識のないまま、ややもするとただひたすらに「悪しき規制を退治せよ」といった勧善懲悪的な演出の下で改革が推し進められた点にあるように思われます。
 それゆえ、改革への熱狂が社会全体を覆っている時期には、改革の副作用が深刻な形で噴出していても、それに言及すること自体が改革への熱意を引き下げるのではないかといった配慮から、その問題は意識的に黙殺され、逆に改革への熱狂が醒めてくると、副作用ゆえに改革を全否定する議論が噴出するという事態が起こるのでしょう。そこに欠落していたのは、社会システム総体の様子を見ながら、副作用が最低限に収まるように、漸進的に改革を進めていこうという冷静な感覚だったのではないでしょうか。

 これは雇用システムに限った話ではなく、何かあると極端なことを言い出すやつがいる。どっかの学校でいじめ自殺が起こったら「制度が悪い。制度を変えよう!」とか言い出すアホが。

 そりゃあどんなシステムにだって悪いところはある。だけど長く使っている制度にはいい点もたくさんあるし、アホなえらい人の思い付きで変更したときに良くなるという保証はどこにもない。ちゃんとあらかじめ指標を決めて変更前後の影響を計測して改革がうまくいったかどうかを検証して、定められた期間に目標達成しなければ政策の過ちを認めて引き返す……ということをすればいいのだが、アホなえらい人がそんなことをするはずがないけどね(過ちを認められるまともな人は思いつきでころころ制度を変えない)。


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