シロアリ
女王様、その手がありましたか!
松浦 健二
アリはおもしろい。
ぼくは子どものときアリを飼っていた。学研の『科学』の付録のアリの巣観察キットで。
アリはどれだけ見ても飽きない。
知れば知るほど驚きに満ちている。『クレイジージャーニー』のアリマスター・島田拓氏の回も、『香川照之の昆虫すごいぜ!』のアリ回もおもしろかった。
農業もするし、畜産もする。分業もすれば同種内で助け合い、さらには他の生物とも助け合う。こんなに社会性の高い動物は、ヒトを除けばアリ(次いでハチ)ぐらいのものだ。
で、アリの本を探していたがちょうどいいのがなく、『シロアリ』という本が見つかったので買ってみた。
そして知った。シロアリはアリとはまったく別の昆虫だということを……。
アリはハチに近いが、シロアリはアリよりもゴキブリに近い生き物なんだそうだ。名前に「アリ」とはついているが、アリとはぜんぜん関係ないんだそうだ。知らなかった……。どっちも群れて暮らしているから、土に巣をつくるのががアリで木に巣をつくるのがシロアリかとおもっていたよ……。
シロアリの生態はこの本を読むまでほとんど知らなかった。「家の木材を食ってしまう害虫」という認識しかなかった。たぶんみんなそうだろう。
だがこの本を読むと、シロアリはアリに負けず劣らずすごい生き物だ。じつに高度な社会を築いている。
たとえば。
繁殖期になるとオスとメスのカップルができるわけだが、オス同士、メス同士のペアもできあがるらしい。
べつに同性愛傾向があるわけではなく(中にはそういうのもいるのかもしれないが)、二匹で並んでいると敵に捕食されにくいためらしい。
さらに驚くことに、メス同士のペアでも卵を産み、ちゃんとその卵から幼虫が孵化するというのだ。事前にオスと出会って受精していたわけでもない。いったいなぜ?
その答えはこの本を読んでいただくとして、メス同士でも産卵・繁殖ができる理由を読むと「なんとよくできたシステムか」と感心する。
いろんなケースに備えて、生き残り、子孫を残すための戦略をたくさん持っている。
アリやハチは女王がいてオスの王はいないが、シロアリは王と女王がいる。
オスの王は長く生き、オス王が死ぬとコロニーは死滅する。アリやハチの巣の寿命=女王の寿命なのと対称的だ。
一方、シロアリの女王は王よりも早く死に、女王が死ぬと別のシロアリが女王(二次女王)になる。二次女王は通常数十匹、多いコロニーだと数百匹の二次女王が存在するそうだ。
一匹の王に対して数百匹の女王! すごいハーレムだ! ……とおもいきや、そういうわけでもないらしい。
初代の女王(創設女王)は、単為生殖(交尾をせずに産卵する)によって女王を殖やせる。二次女王は創設女王のクローン……ではなく、分身のような存在だ。創設女王と遺伝子が半分一緒なので。
わかりやすく説明すると、『ドラゴンボール』の天津飯が四身の拳によって四人になったけど戦闘力も四分の一になったようなものだ。うん、余計わかりにくいな。
ちなみに二次女王は、産卵のペースが落ちるとワーカー(働きシロアリ)に食べられて、子どもたちの栄養になるそうだ。
だが自身のコピーを作成して、常に若い状態で卵をどんどん産むので、食べられても生き残っていると言えるかもしれない。ピッコロ大魔王が死ぬ間際に卵を産んだのと同じだ。なんでもドラゴンボールで例えるな。
シロアリの遺伝子を残すための戦略はほんとに優れている。
「種を残す」という生き物最大の目的からすると、人間なんかよりシロアリのほうがよっぽど高等な生物だ。まちがいなく、人類が絶滅した後もシロアリは生き残るだろうな。
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