瞬間移動死体
西澤保彦
西澤保彦氏の作品といえば、以前に『七回死んだ男』を読んだことがある。
たしか、1日前にタイムリープする能力を持った主人公が、何度も殺人事件に巻きこまれながら推理するという話だった。
「SF+ミステリ」「何度やりなおしても被害者が殺されてしまう」というアイデアはおもしろかったのだが、残念ながら謎解きや結末についてはまったく記憶に残っていない。
さほど性に合わなかったのだろう。
『瞬間移動死体』も、SFとミステリを組み合わせた作品だ。
主人公は思い描いたところに瞬間移動できる能力を持っている。
めちゃくちゃ便利じゃないか、どんな犯罪でもやりたい放題じゃないか、とおもうが、話はそうかんたんではない。
この能力には、大きく三つ制約がある。
- 飲めない酒を飲んで酩酊したときしか瞬間移動できない(ただし瞬間移動と同時にアルコールは身体から抜ける)。
- 身一つでしか瞬間移動できない。ものを持っていけないのはもちろん、着ていた服も脱げて移動先では全裸になってしまう。
- 自分がA地点からB地点に瞬間移動するのと引き換えに、B地点にあったものがなにかひとつA地点に瞬間移動する。何を引き換えにするかは選べない。
この制約があるため、たとえば「銀行の金庫の中に移動して金を持って帰る」みたいなことはできない。
金庫の中に移動したとしても、移動先に酒がないから戻ってくることができない。
仮に酒があったとしても、札束を持ったまま瞬間移動することはできない。手ぶらで行って手ぶらで帰ることになる。
また日常生活にも使えない。遅刻しそうだから瞬間移動で……とやろうにも、向こうには全裸で現れることになるのだから。
意外と使えない能力なのだ。
だが、主人公が妻に対して殺意を抱いたときに気づく。
アリバイトリックに使えるじゃないか。
日本から瞬間移動でアメリカに行き、妻を殺す。
瞬間移動で戻ってくる。
パスポートには出入国履歴がないから鉄壁のアリバイを手に入れることができる。
完全犯罪だ。
ところが主人公がアメリカに瞬間移動したとたん、おもわぬ邪魔が入る。
やむなく殺害を先延ばしにするのだが、なんとまったく身に覚えのない死体が発見され……。
と、なんとも意外な展開に。
まったく先の読めない設定で、すばらしい導入。
能力の制約が絶妙なのだ。
だが……。
ううむ。
やっぱり性に合わなかったなあ。
なんでだろうな。
SF要素があるとはいえ、ミステリとしてはすごくフェア。
前半にすべての条件を提示し、その中で謎を生みだして解いてみせる。
事件発覚にも謎解き作業にも謎の真相にも、瞬間移動能力がからんでいる。
設定に無駄がない。
無駄がなさすぎるのかなあ。
小説というよりパズルみたいなんだよね。
瞬間移動に関係するトリックをまず作って、それを引き立てるためにおあつらえ向きの舞台とふさわしい登場人物を配置して、トリックを成功させるためだけに全員が行動する。
ハプニングも起こるけど、それもトリックを成立させるために必要不可欠なハプニング。予定通りのハプニング。
ピタゴラスイッチを観ているような気分になるんだよね。
「よくできてんなー」とはおもうけど「どうなっちゃうの?」って気持ちにはならない。
「最後はしかるべきところに収まるんだろうな」って気分で読んでいた(そしてじっさいそうなった)。
精密に作りこまれすぎたミステリって好みじゃないんだよね。
多少は無駄なストーリーとかどうでもいい会話とかがあったほうがいい。
や、『瞬間移動死体』にはあるんだけどね。
ものぐさな主人公とか、すごくいびつな夫婦関係とか、可愛さあまって憎さ百倍みたいな憎悪とか。
でもそういうのもとってつけたように感じてしまったな。
漫画『DEATH NOTE』を読んだときも同じようなことをおもった(ただ『DEATH NOTE』は後から小出しでルールをどんどん追加してくるのでぜんぜんフェアじゃない。『瞬間移動死体』のほうがはるかによく練られている)。
あの漫画を好きだった人なら楽しめるかもしれない。
よくできてるけど、ぼくの好みには合わない作品でした。ぺこり。
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