2024年6月26日水曜日

【読書感想文】架神 恭介 至道 流星『リアル人生ゲーム完全攻略本』 / 平等な社会は地獄

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リアル人生ゲーム完全攻略本

架神 恭介 至道 流星

内容(筑摩書房ホームページより)
「人生はクソゲーだ!」しかし、本書のような攻略本があれば、話は別。各種職業の特色から、様々なイベントの対処法まで、全てを網羅した究極のマニュアル本!

 

 「人生」というゲームを作った神々が、ユーザー(人間)たちのクレームに答えるため、「人生」マニュアルを作ったところ、ユーザー(人間)たちが勝手にルールの隙間をつく攻略本をつくりだした……という設定の本。 

 前半は、ゲームデザイナーである神が、その上司からの指示に答える形で「人生」のマニュアルを書くパート。後半は人間による攻略本パート。圧倒的に前半のマニュアルパート(架神恭介著)のほうがおもしろい。

 一方の攻略本パート(至道流星著)は退屈。「人生」の攻略本という設定なのに、ほとんど設定を無視して、21世紀の日本における経済の話ばかり。新書半分の分量で経済を語っているので当然ながら内容も薄い。ま、ちくまプリマ―新書(中高生向けレーベル)なので浅い話に終始してしまうのもしかたない面もあるが……。



 前半の「創造主でありゲーム運営元である神から見た『人生』ゲーム」のパートはおもしろかった。

 俺の作ったゲーム『人生』は、かつてない自由度の高さと、斬新なゲーム体験を提供する自信の最新作だ。
 社内で企画が通ったのは46億年前。企画者でありプロデューサーであった俺は直ちにデータセンターに連絡して「地球」サーバをレンタルした。種族「アウストラロピテクス」や種族「ネアンデルタール人」でのβテストを経た後(βテストにご参加頂いた皆さんありがとうございます)、満を持して種族「ホモ・サピエンス」を実装。約25万年前に正式稼働し、それから紆余曲折を経ながらもプレイヤー人口を着実に増やしてきたのだった。

 ギャグみたいな設定なのに、意外と設定がつくりこまれていて、こんなふうに細かい知識がちりばめられているのがいい。『聖☆おにいさん』のようなおもしろさがある。

 そうか、ネアンデルタール人はβテスト参加者だったのか。だからβテスト終了と同時にネアンデルタール人は地球から退場して、一部はホモ・サピエンスとの混血という形で残ったのね。


「この寿命ってのさ、かなり重要なリソースじゃん? なんでこういう重要なところをランダムにしちゃうの? ていうか、全体的にスタート時点でのランダム要素多すぎじゃない? 容姿とか資産とかさ。その点の苦情もいっぱい来てるんだよ?」
「いやいやいや、部長」
 部長のあまりにも浅薄なゲーム評に、俺は冷笑を浮かべて答えた。
「部長、ゲームにはランダム要素が重要なんですよ? 良いプレイングをした人が勝てるゲームってのは、公平なようでいて息が詰まるんです。こういうランダム要素が適度に介在することで、プレイヤーはゲームをより気軽に楽しめるんです」
 何もかも公平にしてしまえば勝ち負けは完全に実力勝負になってしまう。そうなると、もう弱いプレイヤーはひたすら負け続けるだけだ。目先の公平さだけでなく、こういう深いところまで考えて俺はゲームをデザインしているのだが、ハッ、所詮、部長のコチコチ頭では分からんか。

 これはなかなかいいことを言っている。

 そうそう、何もかも公平な世の中なんてつまらない。というかやっていられない。

 最近「親ガチャ」なんて言葉が流行ってて、どんな親から生まれるかで人生がある程度決まってしまう、という使われ方をしている。はっきりいって「親ガチャ」を言い訳にするのはあまり好きではないのだが(恵まれた人が「親ガチャがあたりだっただけです」と謙虚にふるまうのならいいんだけど)、しかし「親ガチャ」があるのは事実だ。金持ちで、教養を持っている親から生まれた子は、人生においてかなり有利なスタートを切ることができる。

 ただ。

 だったら、人生ゲーム(ボードゲームの)みたいに「全員同じ金額を持って、同じ能力を持って、同じスタート地点からスタート。とれる選択肢も、イベントが発生する確率も全員まったく同じ」という人生だったらどうか。

 あいつの学校の成績が悪いのも、ぼくが運動ができないのも、あの子の年収が低いのも、君が異性にモテないのも、すべて「努力不足」になる。「おまえが不幸なのはすべておまえのせいだ。自己責任なんだから甘んじて受け入れろ」となる。

 それこそ地獄だ。悪いことがあっても「親ガチャがはずれだった」と嘆くことのできる人生のほうがどれだけマシか。


 不平等がはっきりしている社会は悲惨、完全に平等な社会もまた悲惨。

 だが現実はもっと悲惨なのだ。なぜなら、ほんとは不平等なのに、「誰にでも成功するチャンスはあります」と言われているのだから。

 マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』に「能力主義の理想は不平等の解決ではない。不平等の正当化なのだ」とあった。

 アメリカなんて、ごくわずかな富裕層が社会の富の大半を占有している、ものすごく不平等な社会だ(日本もそれに近いし、どんどん近づいている)。昔なら革命が起こってもおかしくない。

 だが革命が起こらないのは「誰もが平等だ。誰にでもチャンスはある」という嘘がまかりとおっているからだ。ま、厳密には嘘ではなく、50%のチャンスを持っている人と0.001%のチャンスを持っている人がいるわけなんだけど。身分制社会のように「100%逆転不可能」にしてしまうと、武力革命を起こすしかなくなるからね。


 というわけで、人生は不公平だし、格差はあってもいいけど、必要なのはそれをちゃんと伝えることだよね。学校とかで「人間誰しも平等です」なんて嘘をつくのをやめてさ。


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