スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む
日本の大学生は何を感じたのか
ヨーラン・スバネリッド(原著) 鈴木賢志(編訳)
明治大学国際日本学部鈴木ゼミ(編訳)
スウェーデンでは国政選挙の投票率が80%を超えているという。なぜスウェーデン国民は政治参加への意識が強いのか。その謎を探るべく、スウェーデンの小学校(厳密には日本の小学校相当)の社会科の教科書を読むという大学のゼミの様子を収めた本。
うーん、試みはおもしろいんだけど、このゼミのレベルはひどいわ……。
学生たちがあまりに教授の誘導に乗りすぎている。きっとこの学生たちはみんなそこそこ賢いのだろう。だから「教授が求めている感想」を的確に判断して、きちんとそれを述べている。うん、お利口だね。
だけど自分で調べようというほどの熱意はない。ま、専門以外のゼミなんてそんなもんだよね。ごくごくふつうのゼミだとはおもうけど、そこで語られていることには本にするほどの価値はない。
学生たちはみんな「大学生になってから読んだ現在のスウェーデンの教科書」と「自分が小学生のときに読んだ昔の日本の教科書のおぼろげな記憶」を比較してあれこれ語っている。あたりまえだけど、そんな比較になんの意味もない。
たとえば、スウェーデンの教科書には「なぜ歴史を学ばないといけないのか」が書いてあるんだけど、それを読んだ学生が「すごいよね。日本の教科書では歴史を学ぶ意義みたいなものは教えないよね」なんて語っている。
んなわけあるかい。歴史の教科書には、必ず歴史を学ぶ意義が書いてある。少なくとも今までぼくが使ってきた教科書はみんなそうだった。
きっとこの学生の教科書にも書いてあっただろう。ただ忘れているだけ。なぜなら序文なんてほとんどの授業で扱わないし、テストにも出ないから。
ほんとにやるべきなのは、今の日本の教科書を改めてじっくり読んでみて、その上でスウェーデンの教科書と比較することだろう。今の教科書なんてそのへんの図書館に行けばかんたんに閲覧できる。かんたんなことなのに、誰もやっていない。
まあこれは学生じゃなくて指導教官の問題なんだけど。
そもそもなんだけどさ。「小学生がまじめに教科書を読むはずがない」という視点がごっそり抜け落ちている。自分たちがそうだったくせに。
教科書の序文なんか読まない。本文もほとんど読まない。読んだとしても、そこから何かを読み取ろうとはしない。読み取ったとしてもすぐに忘れてしまう。
小学生ってそんなもんでしょ。現に、自分たちは小学五年生の社会の教科書に何が書いてあったかなんてまるっきりおぼえてないわけじゃない。それがあたりまえ。
なのに、なぜ「スウェーデンの小学生は教科書を隅から隅まで熱心に読み、そこに書かれていることを完全に理解し、それを己の血肉とし、大人になった後も教科書に書かれていたことを基に社会とのかかわり方を決定している」とおもえるのか。
「小学校の社会の教科書が社会思想を育んでいる」という前提そのものがまちがっている。まったく関係ないとは言わないけど、それよりは教師がどんな話をしているかとか、家庭内で親がどんな話をしたかとか、テレビやネットでどんなことを語っているかとか、身近な大人がどんな行動をしているかとかのほうがずっと大事だろう。
人は教科書のみで学ぶわけにあらず。
「スウェーデンの政治参加率が高いのは学校教育、教科書が優れているからだ」という結論が先にあって、それに合うストーリーを作っているだけなんだよね。
ということで、ゼミで話し合った内容の部分は途中から読むのをやめた。学生たち、ひたすら先生が喜びそうなことをしゃべってるだけなんだもん。
しかしスウェーデンの教科書の内容自体はおもしろかった。
ぼくが感じたのは「スウェーデンの教科書はずいぶんあけすけだな」ということ。ぼくも現在の日本の教科書をじっくり読んだわけじゃないから比較はできないけど。
でも「議員は当選するために行動する」なんて書いてあるのはおもしろい。こんなことは誰しもが知っているけれど、日本だとなかなか書けないよね(書いてある教科書があったらごめんね)。
また、メディアとの接し方でいえば「どうやってメディアの情報を受け取るべきか」は習ったことがあるけど「どうやって情報を発信していくか」は学校で習った記憶がない。
これもスウェーデンの教科書ではしっかり書かれている。
おもしろいなあ。ウェブやSNSで情報発信をしやすくなった現在だからこそ、受け取り方と同じぐらい発信の仕方も重要だもんね。
しかし「フェイスブックでグループをつくりましょう」「デモを行いましょう」なんて、学校側は嫌がりそうだよなあ。
だって、学生たちがおかしなことに対して批判の声を上げだしたら、真っ先に矛先が向かうのは学校であり教師だもんな。
この課題もおもしろい。
単に独裁制はよくないと書くだけでなく、独裁制を敷くためには何が必要か、独裁制に対抗するためには何が必要かを考える機会を与えてくれる、いい思考実験だ。
もっとも、スウェーデンの子どもたちがこれを読んでじっくり考えているかどうかは知らないけど(たぶん考えてない)。
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