2022年7月15日金曜日

ABCお笑いグランプリ(2022年)の感想

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 第43回 ABCお笑いグランプリ 感想


 感想。関西に住んでいるのでいろんなお笑いのコンテストを見るが、昔からABCお笑いグランプリがいちばん好き。しっかりネタも見せてくれるし、合間の司会者と審査員のやりとりもおもしろく、バラエティとしても見ごたえがある。

 数年前の藤井隆司会、審査員にハイヒールリンゴやフジモンがいた頃がいちばんおもしろかった。でも決勝進出者のネタよりも審査員のほうがおもしろかったりしたので、さすがにそれはよくない。


■ ゲスト漫才

オズワルド
コウテイ
ミルクボーイ

 オズワルド。「車デートの車は車エビでもいいのか」と、シュールなネタにしてはベタよりなテーマ。相変わらずフレーズはおもしろいけど、まだ細かい無駄がある気がする。間とか。M-1グランプリに向けてこれから改良していくことでもっともっと良くなっていくんだろうな。

 コウテイのネタはあんまり好きじゃないんだけど、今回の「奈良時代に備中鍬で畑耕してる女やれや!」のネタはおもしろかったな。でも備中ぐわが広まったのは江戸時代だって小学生の時に習ったよ。名前に「備中」って入ってるんだから江戸以降に決まってるじゃん。

 ミルクボーイは貫禄を感じる。ABCお笑いグランプリのチャンピオンじゃないのに。ラジオ体操の「これ」のネタ。ついに物や場所ではなく動きまでを題材にしはじめた。ミルクボーイのネタって初期からすでに完成されていたように見えたけど、まだまだ伸びる余地があったのか……。



■ Aブロック

ドーナツ・ピーナツ(クラス分け)
こたけ正義感(変な法律)
青色1号(ノリツッコミ)
かが屋(喫茶店)

 ドーナツ・ピーナツはいい設定ではあるが、笑いどころが「変な校長先生」と「変な生徒」に分散されるのがちょっと見づらかったような。少年院上がりの生徒や留学生をハズレ扱いするのは、今の時代にはそぐわないかな。しかし粗さが目立つ分、今後まだまだおもしろくなりそうな二人。

 こたけ正義感は、現役弁護士という属性を活かしたネタ。「変な法律にツッコミを入れる」という着眼点は新しくもなんともない(『VOW』でも変な校則を扱ったりしてた)が、弁護士がやるだけで説得力が増してふしぎとおもしろくなる。たしかにおもしろいが、芸として見たらどうなんだろうという気もする。活字で見てもそこそこおもしろいだろうし。

 青色1号は、後半の「こいつがヤバいやつだったのか」が判明するあたりからどんどんおもしろくなるし、店長の「怖すぎて指摘できなかった」のも妙にリアルでよかった。ただいかんせん前半が退屈だった。「バイトでのウザいノリ」を見せるためにわざとおもしろくないことをしているのは理解できるが、演技がうますぎるのかほんとにつまらなかったんだよなあ。

 かが屋はコントというよりコメディ。台詞でも動作でもなく、カチャカチャカチャカチャッという音のみで笑いをとりにいく勇気がすごい。先輩バイトが震えている、という一点突破ネタだが、「弱気なやつが後輩バイトを守るために勇気を振り絞って面倒な客に立ち向かい震えている」では愛おしいだけで笑いものにする気にはなれない。「イキっていた客のほうも実はびびって震えていた」みたいな展開なら笑えるが、そっちに持っていかずに胸キュンストーリーに話を運ぶのがかが屋らしい。

 決勝進出はこたけ正義感。たしかにおもしろかったが、二本目を見たいという気にはならなかったのでちょっと意外。



■ Bブロック

令和ロマン(秋元康)
ハノーバー(彼女の両親に挨拶)
ダウ90000(独白)
天才ピアニスト(防犯訓練)

 令和ロマン。「AKBの歌を考えているのは秋元康だぞ」というこれまで何十回も聞いたベタすぎる導入ながら、美空ひばりにまで持っていくパワフルな展開。どさくさにまぎれて、後半はAKBの曲を「変な曲」と言ったり、「こんな才能があるのに」と褒めているようでディスっていたり、相当な失礼をぶちこんでいるのにさらっと流すところがニクい。秋元康をイメージできない人にはちんぷんかんぷんなネタだっただろうが。

 ハノーバーは、ひとつめの「お父さんとお母さん、どっちだ?」がすべてで、それを超える展開はなかった。妹もそっくりというオチも、事前に妹の存在を示していることで全員が読めただろうし。はじめの一分がピークだった。

 ダウ90000は、演劇のお約束である「観客に向かっての独白」を逆手にとるというメタなコント。ちょっと挑戦的すぎた。「八人組ってどんなコントをするんだろう?」とおもっていた観客の期待を悪い意味で裏切ってしまった。例えていうなら、ニメートル超の長身ピッチャーが出てきたとおもったら、アンダースローで初球にスクリューを投げてきたかのような。裏切りはほしいが、そこまで裏切られるともうついていけない。何球か剛速球が続いた後のスクリューだったら「してやられた」感もあるが。序盤に「ふつうの独白」をフリとして一、二回見せるべきだったのでは。

 天才ピアニストは、滑稽な校長に教師がつっこむのではなく、「滑稽な校長に生徒がつっこみ、それを教師がたしなめる」という構成にしているのがニクい。これにより二人の周囲が鮮明に見えてきて、立体的なコントになっている。校長につっこみを入れたらリアリティがないもんね。そして、さんざん「笑うな」と言っておいてからの「ここ笑わんと」という緩急のつけ方。最高。徐々に引きこまれて、ほんとに生徒たちの姿が見えた。惜しむらくは「全校集会で生徒たちを叱りつける教師」をやるには竹内さんに貫録がなさすぎること。あと二十年歳をとってからやったら完璧かもしれない。

 決勝進出は令和ロマン。完全に天才ピアニストだろうとおもっていたので、結果を見たとき「えっ」と声が出た。この後の審査もそうだが、漫才のほうが評価高い気がする。



■ Cブロック

 フランスピアノ(ここだけの話)
 ヨネダ2000(おみこしをかつぐプロ)
 Gパンパンダ(飲みの誘い)
 カベポスター(話がそれる)

 フランスピアノ「ここだけの話」が本当にこの地点に紐づいているという設定だが、種明かしがややあっけなかった。ここが最初のピークなのだからもっと引っ張ってもよかったのでは。ブラックなオチは嫌いでないが、この短時間だと「ほら伏線回収見事でしょ」という感じが伝わってしまい、素直に感心できず。

 ヨネダ2000は、好きにしてくださいという感じで特に言いたいことはなし。終わった後に、審査員がみんな「声がよかった」などとネタの内容ではなく表層的な部分だけを褒めていたのがおもしろかった。まあアドバイスするようなネタじゃないしなあ。

 Gパンパンダは「飲み会を断る新人」と「パワハラにならないように気を付けながら飲みに誘う上司」というきわめて現代的な設定のコント。前半の「本心がわかりづらい後輩」は嫌悪感をもったが、後半で後輩が本音を吐露するあたりからは一気に好感が持てた。つまり、まんまと芝居に引きこまれたわけだ。途中、上司役のほうが本気で笑ってたように見えたがあれは芝居なのか? 芝居自体は誇張されているが、登場人物の行動原理はとてもリアルでよかった。

 カベポスター。話が関係ない方向にそれるのだが、それた話のほうがおもしろくて気になってしまうという漫才。漫才って「ボケのおもしろさをツッコミがさらに引き立てる」が多いが、カベポスターの漫才は「ボケ単体ではまったくおもしろくないけどツッコミがいることでおもしろくなる」構成になっていることが多い。このネタなんかまさにそう。ふつうなら見逃してしまうおもしろさに、絶妙にスポットライトを当てて照らしてくれる。さらに、クイズがおもしろい→答えもおもしろい→「ですが」→クオリティ落ちた→クオリティ落ちたかとおもったら高かった、と照明の色がめまぐるしく変わるので飽きさせない。間の取り方も絶妙。いやあ、綿密に計算されたネタだ。

 決勝進出はカベポスター。個人的に好きだったのはGパンパンダだが、あれだけ高い完成度を見せられたらカベポスターの通過も納得。



■ 最終決戦

 カベポスター(大声大会)
 令和ロマン(トイ・ストーリー)
 こたけ正義感(法律用語をわかりやすく)

 カベポスターは相変わらずよくできたネタ。ハートフルな展開になるコントはよくあるけど、漫才ではめずらしい。「開催側がテコ入れ」など、終始やさしい漫才。カベポスターのネタはいつも平和だなあ。漫才もさることながら、永見さんは劇作家の才能があふれてる。

 令和ロマン。「子どもの泣き方の2番」は、個人的に今大会ナンバーワンのフレーズ。しかしこのネタは松井ケムリが延々泣きつづけるため、それは同時に持ち味である巧みなつっこみを封じるということである。漫才はつっこみで笑いをとるものなのに、それを封じてしまったらそりゃ勝てないわなあ。でも個人的には一本目より好きだった。

 こたけ正義感は法律用語を別の言葉に言い替えるというピンネタの定番のようなネタだったが、フレーズがことごとく観ている側の予想を下回っていた。たとえば裁判官⇒「おかあさん」の言い替え。なるほどと感心するほどしっくりくる言い換えでもないし、かといって「ぜんぜんちがうやん」という笑いになるほど遠くもない。絶妙に笑えないラインだったな……。


 優勝はカベポスター。納得。ずっとあと一歩だったのでもう優勝させてやりたい、という審査員の期待に応える見事なネタでした。

 個人的なベスト3は、天才ピアニスト、カベポスター(一本目)、Gパンパンダでした。


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