2026年4月15日水曜日

【読書感想文】松原 始『もしも世界からカラスが消えたら』 / じゃあ申し訳ないけど絶滅で

もしも世界からカラスが消えたら

松原 始

内容(e-honより)
不本意ながら、嫌われ者のカラスをこの世から消してみました。カラスがいないと人間社会や生態系はどうなる?カラス学者が占うSFな未来。カラスを愛しすぎている鳥類学者がカラス寄りの目線で挑んだ新境地…はたして結末は!?

 カラスの研究者である著者が、「もしカラスがいなかったらどんな世界になってるか?」について書いた本。カラスが果たしていた役割(ゴミ掃除、果実の種子散布など)はどの鳥が埋めるのか、カラスの代わりに我々の身近にいるであろう鳥は何か、などについて考察している。

 正直言って、あまりおもしろくない。同著者の『カラスの教科書』『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』がおもしろかっただけに期待しすぎていたのかもしれないが。

 カラス好き、鳥好きからしたら「カラスの代わりにハゲワシの仲間が活躍する」とか「カラスが担っていた役割をオウムやインコの種類が担うかもしれない」って大問題なのかもしれないが、そこまでカラスに思い入れのない者からすると「ふーん」としかおもわないんだよね。

 そもそも生活していてカラスを意識することがほとんどないので(自治会のごみ当番になったら意識するかも)、もしある日突然カラスが消滅したとしてもしばらく気づかないんじゃないだろうか。

 以前ミノムシが絶滅寸前だと聞いたときに「ふーん、そっか。そういや最近見てなかったな。でも大人になったらどっちみち虫をじっくり見る機会なんてほとんどないしな」としかおもわなかった。

 カラスもぼくにとってはその程度の存在だ。そりゃあカラスがいないよりはいたほうがいいけど「カラスが絶滅しそうですがあなたが一万円出してくれたら絶滅を防げます」と言われてもちょっと迷ったあげく「じゃあ申し訳ないけど……絶滅で……」と言ってしまいそうだ。



 そもそも「もしも世界からカラスが消えたら」というテーマ選びが失敗している気がする。

 著者が『カラスの教科書』でこう書いていた。

  カラスの特徴は、特殊化していないことだと思う。絵に描いてみるとわかるが、カラス類のシルエットは、くちばしがやや大きいことを除けば非常に基本的なトリの形をしていて、明快な特徴がない。だから、ものすごく得意という分野はないのだろうが、逆に言えば、何でも一応はできる。シギのような長いくちばしも、猛禽のような鋭い爪も、アホウドリのような長い翼も持ってはいないが、それでもカラスはちゃんと餌を食っているわけだ。包丁で言えば「これ一本でだいたい間に合う」という万能包丁で、刺身や菜切りに特化したつくりではない。
 何でも一応はできるということは、潰しが効くということである。これはどんな場所でも、何を餌とする場合でも、ソコソコの成功を収めることができそうな戦略である。

 カラスは「真っ黒」という強烈な特徴を持っているから印象に残るだけで、色以外は無個性、凡庸な鳥なのだ。なんでも器用にこなせる代わりに「これだけは他の誰にも負けない」という武器は持っていない。

 だから「もしも世界からカラスが消えた」としても、他の鳥がその隙間を埋めるだけで、大きな影響はないんだよね。

 この本ではネタに困ったのか、小説とか漫画とかに出てくるカラスがどうなるとか、名前に「鴉(からす)」が入っているキャラがどうなるとか、かなりどうでもいい記述にページを割いている。このあたりは文章がおもしろいわけでもなく、完全に蛇足だったなあ……。



 カラスは世界中の広範囲にわたって生息しているが、南米にはカラス族がいないそうだ。

 興味深いのは、南米でカラスのニッチを占めているのがコンドル類だということだ。かつ、コンドルは南米、中米・北米南部までしか分布しない。コンドルの化石は更新世(約260万年から1万年前)の南北アメリカから発見されており、どうやら他の地域にいたことはないようだ。となると、地球の各地に分布を拡大していったカラス属が南米に入ろうとしたとき、そこにはすでにスカベンジャーとして確立されたコンドルがおり、そのニッチを商売でいうならばシェアを奪うことができなかった、と考えられないか。実際、カラス科の中でもスカベンジャーに特化していない、森林性の中型鳥類であるサンジャク類は南米にも分布するのだ。彼らは果実や小動物が主食である。
 もっとも、北米にはコンドルとカラスが同居しているので、この仮説には弱点もあることは認める。

「南米にはカラスより前にコンドルがいたからカラスが定着できなかった」という仮説だ。

 大企業が海外に進出したものの、その国にはすでに競合する企業があったため(そして元々の企業のほうが競争に優位なため)事業不振により撤退を強いられるようなものだね。カラスとコンドルって見た目はだいぶちがうけど(でもコンドルも黒っぽい)、実は近い業種なのかもね。



 鳥とは関係ないけど、おもしろかった話。

 また、とある人がツイッターに投稿したダニの写真に専門家が反応し、連絡を取って場所を聞いて確かめにいったら新種だった、という例もある。チョウシハマベダニという和名になったこのダニ、学名は Ameronothrus twitter である。さらにこれが話題になると、「噂のダニってこれ?」というツイートが出た。ところがくだんの専門家が見ると、どうも別種、しかも新種くさい。ということで調べたらやはり新種で、こちらはイワドハマベダニ、学名は Ameronothrus retweetとなった。ツイッターとRTである。

 twitterはイーロン・マスク氏に買収されてXになりtwitterの名前は消滅したが、意外にも学名に「twitter」「retweet」という名が残っていたとは。


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