2026年9月14日月曜日

【読書感想文】ジェーン・スー『私たちがプロポーズされないのには、 101の理由があってだな』 / 結婚から遠ざかるための本

私たちがプロポーズされないのには、
101の理由があってだな

ジェーン・スー

内容(e-honより)
独身は麻薬(シングルイズドラッグ)!? 結婚したい女性が知らず知らずのうちにやってしまう「プロポーズされない理由」を、独身チキンレース爆走中の“未婚のプロ”ジェーン・スーが徹底解説。女性はもちろん、複雑な女心を知りたい男性も必読の人間洞察エンターテイメント!

 著者はジェーン・スーという名前だけど生粋の日本人だそうだ。


 幾人もの男と付き合ったけどとうとう独身のまま40代を迎えてしまった女性による「プロポーズされない101の理由」。

 ぼくは既婚男性なので「プロポーズされない女性」とは真逆の属性なのだが、だからこそ楽しく読めた。自分とはまったく関係ない人に向けて書かれた本は素直に読める。

 もしもぼくが結婚したかったという後悔を抱えている結婚適齢期を過ぎた女性だったら、突き刺さりすぎてまともに読めなかったかもしれない。



 婚活を描いた小説・辻村深月『傲慢と善良』に「お見合いがうまくいかない人はみんな、自分に釣り合う相手じゃなければ納得しないし、その基準が控えめだと言いつつ、実は相当高い」という台詞が出てきた。

 それなりに異性と交際してきたにもかかわらず(そして結婚願望があったのに)結婚できなかった人は、みんな突き詰めれば「求めるものが高い」に集約されるのだろう。

 当時の私たちは、20代で早々に結婚を決めた女を見ては「あの男が旦那じゃ頼りないねぇ〜」となにさま目線で語っていました。しかし振り返れば、彼女たちは現状の彼が完璧じゃないこともわかっていたし、それでもある程度は充足していたのでしょう。不足だらけの自分たちを当然のこととして受け止め、それでも一生一緒にいようと誓いを立てたのです。あのとき結婚を決めた女たちは脇が甘いのではなく、私たち未婚のプロのように「のしを付けてすぐ納品できるような状態の男にならないと、結婚できない!」などという不遜な意識がなかったのですね。

 前にも書いたけど、ぼくの友人に稼ぎが良くて見た目もわりと良くて性格も穏やかで家事もきちんとやる男(既婚者)がいる。いわゆる“理想的な夫”だ。

 だが彼は最初から理想的な夫だったわけではない。二十代の頃は仕事を転々としていて稼ぎも良くなく、生活も荒れていた。その頃から付き合っていた女性と結婚して、徐々に“理想的な夫”になっていったのだ。

 最初から“理想的な夫”を探そうとしてもそんな男はまずいない。いたとして、とっくに結婚している。


 残酷な話として、恋愛市場、婚活市場において女性は若ければ若いほど価値が高い。一方男性のほうは必ずしもそうではなくて、年齢が上がるほど収入は増える傾向があるし、角がとれて人あたりがよくなる人が多い(というより男は二十歳を過ぎてもまだまだガキすぎるんだよね)。もちろん悪化する人もいるけど。

「いい男がいない」のは当然で、探さないといけないのは「いい男になりうる男」なのだ。



 プロポーズされない理由のひとつとして挙げられている『雑誌に書いてある「彼をその気にさせるアプローチ」を鵜呑みにした』。

「その気にさせるアプローチ」自体に罪はありませんが、それをやった女は必ず見返りを求めます。
 雑誌にはご丁寧に「私はこれで成功しました!」という体験談までついていますから、効果がなければがっかりするのは、ごく自然。しかし、その気にさせるアプローチが失敗したら「アプローチ方法」をクサせばよいものを、なぜか「その気にならなかった男」に腹を立ててしまう。これは、アプローチが功を奏さないのは、自分のせいではないと思っているフシがあるからです。が、頭を冷やして考えてみれば、それは勝手すぎるということがわかっていただけると思います。

 これは男女関係にかぎらず、あらゆる人間関係に対して同じことが言えるね。友人でも、親子でも、上司と部下でも。

「相手のためをおもって」アドバイスをするとき、人はどうしても相手に変わることを求めてしまう。そして変わってくれなければ相手に腹が立つ。

「子どもの将来のことをおもって勉強するように言う」と、勉強しない子に対して腹が立つ。そうではなく「子どもが勉強をして難関校に入ってくれたら自慢できてうれしい」と正しく自分の感情を見つめることができれば、助言が聞き入れられなくてもさほど腹も立たない。宝くじがはずれたのと似たようなものだ。

「相手のためをおもって」という思考を捨てて「自分にとって好都合だから」と正しく認識することが心の平穏を保つ秘訣だね。



 相反するものをひとりの人間に求めてしまう、ということについて。

「幸せにするから、俺についてこい!」とプロポーズされたいなら、精神的にマッチョな男と付き合った方が早い。
 
 こちらに都合のいいときだけ、男らしくなってほしいと思っても、なかなかそうはいきません。私たち未婚のプロは、今ではそれを諦めました。普段こっちが仕切りまくったうえで、「プロポーズぐらい、ビシッと決めやがれ!」と昔の私たちは思っていました。が、そんなドラマみたいな展開、あるわけがなかった。だって、その手のプロポーズをする男は、常時なにを決めるのも男主導。それが嫌で、私たちはそうではないタイプとばかり、付き合ってきたんですから。

 そうそう。「常に女性の意志を尊重してくれる優しい男」は、「俺についてこい!」的なプロポーズはしない。女のほうから結婚しようと言いだしたら「じゃあ結婚しようか」と言ってくれるだろうけど。

 都合のいいときだけマッチョさを求めてもそれは虫が良すぎるというものだ。


 ほんと、男から見たら女に対して「そりゃそうですよ」と言いたくなることは多い。

 社交的でマメで行動的な男と付き合った女が浮気されたら「そりゃそういう男は浮気する確率が高いよ。浮気されたくないなら気が利かなくて行動的でなくてモテない男を選ばなきゃ」とおもう。

 もっとも男は男で、「積極性と奥ゆかしさ」とか「清純さとエロさ」のように決して相いれないものを女に対して求めてしまうのだけれど。



 プロポーズされない理由をあれこれ書いていてそのどれもがもっともなんだけど、じゃあ「交際相手はいるのにプロポーズされなくて困っている」女性がこの本を読んだからと結婚できるようになるかというと……むずかしいだろうね。

 理由はいろいろあるけど、いちばん大きいのは「著者自身がどうしても結婚した方がいいとおもっているわけではない」ということ。この本の随所からそれが感じられる。

 プロポーズされなかったけど、そんな自分を否定したいわけじゃないし、むしろ肯定してあげたいし、ということはこれからも改める気はないし、かんたんに改められる人間ならもっと若い頃に改めてるし、そもそも本当に結婚したいのか自分でもよくわからないし……という気持ちが節々から伝わってくる。プロポーズされない自分をむしろ誇りにおもっているんじゃないだろうか。

 著者自身が「世界一役に立たない結婚指南書」と書いているとおり、この本を読んだら結婚できるどころかむしろ結婚から遠ざかるんじゃないだろうか。

 そもそも「結婚」じゃなくて「プロポーズされる」をゴールに置いている時点で根底から間違ってるしね。「転職成功」じゃなくて「スカウトされる」を目標にしてるようなものだもん。


「私たちは間違っていたけど、それも含めてトータルでは間違っていなかった」というメッセージ。自虐に見せかけた慰めの本だね。


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