2025年11月11日火曜日

孫引きの功罪

 引用の引用をすることを「孫引き」といい、原則としてしないほうがよいとされる。

 内容が誤って伝わったり、著作権の侵害とみなされたりするからだ。

 孫引きとはつまり「知り合いの知り合いから聞いたんだけど……」みたいな話だ。そりゃ信憑性は低い。



 が、現実的に孫引きは多くおこなわれている。

 たとえばスタンフォード監獄実験と呼ばれる有名な実験がある。被験者を看守役と囚人役に分けて行動させていると、次第に看守役は看守らしく、囚人役は囚人らしくふるまうようになり、さらには看守役は囚人役に対して暴力をふるうようになった……みたいな実験だ(ただし実験の信憑性にはいろいろ疑いが持たれている)。

 

 有名な実験なので、いろんな本でお目にかかることができる。お手軽心理学とか安っぽいビジネス書にもよく出てくる。

 だがそれらの本の著者のうち、いったいどれだけの人がオリジナルの文献を読んでいるだろう。きっと1%もいないだろう。

「こんな実験があるらしいよ」と書いてある本を読み、「へーそうなんだ」と引用して、それをまた別の人が引用して……と、孫引きどころか曾孫引き、玄孫(孫の孫)引き、来孫(孫の孫の子)引き、昆孫(孫の孫の孫)引き……という感じだろう。

 もちろんぼくだって原典にあたったことはないので、上で紹介したスタンフォード監獄実験の説明も孫引きだ(めんどくさいので孫引き以下の引用はすべて孫引きと呼ぶことにする)。えらそうに語ってごめんなさい。


 ただ、ちゃんとした論文や著作ならともかく、日常会話なら「テレビで言ってたんだけど……」「友だちから聞いたんだけど……」「新聞に書いてあったんだけど……」で十分だ。

 孫引きは決して悪いものではない。むしろ「知り合いの知り合いの話」を信じる能力があるからこそ人類は進歩してきたといえるだろう。

 三平方の定理の証明方法を知らなくたって「教科書にそう書いてあるから正しいものとして扱う」として定理を使ってもかまわない。ありがとうピタゴラス。

 あらゆるものの原典にあたるなんて不可能だし、そんなことをしてたら原典を読むだけで一生が過ぎてしまい新しいものを生み出すことはできない。



 なので個人的には孫引きには寛容な立場だ。

 ただ「孫引きをするときはちゃんと孫引きであることを記せ」とはおもう。孫のくせに子のふりをするな、ってこと。


 具体的にどういうことかというと、White Berryがジッタリンジンの『夏祭り』をカバーして、それを聴いたまたべつのアーティストが歌うときに「White Berryの『夏祭り』をあのアーティストがカバー!」っていう歌番組は許せない、って話。



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