ベイクオフ・ジャパン
Amazonプライムにて視聴。
パンやケーキ作りが趣味の10人が、毎回3つの課題に挑戦。審査の結果、最下位だった人は次のステージに進めない。何度ものコンテストをおこない、チャンピオンを決めるという番組。
NHKでもやっている『ソーイング・ビー』という裁縫コンテスト番組の、ベイカー版。
もともとは英国の番組でそれを日本に輸入したらしい。英国版は観たことない。
ぼくはパン作りもお菓子作りもやらない。焼き菓子といてば、大学生のときに二度ほどブラウニーを焼いただけだ。大学祭で売るために。パンはといえば、結婚祝いでGOPAN(お米でパンを焼ける機械)をもらったので何度か挑戦したが、買った方がだんぜん早いしうまいとおもってすぐにやめてしまった。
そんな、もっぱらパンもお菓子も食べるの専門のぼくですら、この番組(シーズン1)はおもしろかった。
■ テンポがいい
とにかくテンポがいい。
1時間の番組で3つの課題に挑戦する。たとえば第1回なんかは10人の参加者がいるから、10人×3種の料理をつくるわけだ。30種の料理を1時間で紹介するわけだから、どんどん紹介される。だからまったく退屈しない。
決勝になると3人になるが、それでも1時間で9品だ。ぜんぜん間延びしない。このテンポの良さはすごく現代的だ。
■ 金と時間のかけ方が贅沢
日本国内とはおもえない、だだっぴろい高原に作られた広くて使いやすそうなキッチンスタジオ。そこでの長期に渡る戦い(1年近くかかってるんじゃないの?)をたったの8話で流す贅沢さ。
それでいて余計なものは一切ない。必要なところにはふんだんに金をかけ、無駄はすべてそぎ落とす。金と時間の使い方がうまいなーと感じる。
この番組を日本のテレビ局が作ったら、きっと無駄にきらびやかなセットを作り、コメンテーターとしてアイドルや俳優や芸人を並べ、要所要所で音楽や効果音を流し、ものすごく下品なものにしてしまうだろう。
あくまで主役は参加者であり、作られたパンやお菓子。それを最大限に引き立てるために効果的に金と時間をかけている。
■ 参加者が魅力的
よくもまあこんなに素敵な10人を集めてきたものだとおもうほど、10人が10人とも上品。年齢も職業もばらばらなのに、みんな品がある。
こういう対決形式の番組だと特に「こいつは好きじゃないな」みたいな人がいるものだけど、この番組に関しては皆無。みんなそれぞれ好感がもてる。
それでいて、キャラクターが立っている。
AikaさんとYuriさんの関係は『ガラスの仮面』の北島マヤと姫川亜弓を見ているようだった。粗削りながらもすごい吸収力で驚異的な成長を見せるAikaさんと、豊富な実績に裏打ちされた高い技術を安定して披露するYuriさん。たぶん年齢も近い。評価も拮抗して、いったいどっちが紅天女の座を射止めるの!? と目が離せない(紅天女は目指しません)。
随所に人柄の良さがにじみでているKoheiさん。美的センスがアレなところも、本人の人柄を表しているようでかえって好感が持てる。この人、絶対いい人だもんな。Koheiさんに「すまないけどお金貸してくれないか」と言われたら5万までなら貸せる。
Koheiさんは知れば知るほど好きになる。ぼくが女性なら狙ってる。でもKoheiさんは交際中の彼女にゾッコンなんだよなー!
あとトークにふしぎな説得力があるSatoruさん。Satoruさんが自信たっぷりに「このお菓子はこうやって作るんですよね」としゃべっているのを聞いていると、「この人の作るお菓子ぜったいおいしいやん!」という気になる。その自信の割にけっこう失敗するところがほほえましい。
参加者たちの成長が見られるのも楽しい。最初は毒々しい見た目のケーキを作っていたAikaさんが後半では同じ人が作ったとはおもえないほど上品なケーキを仕上げてきたり、うまくいかないとあわてふためいていたYumikoさんが回を重ねるごとにメンタルをコントロールできるようになったり。
高い評価を受けてびっくりしすぎて無表情になっていたToshiharuさんもチャーミングだったし、Nobuoさんはこの人の淹れるコーヒーめちゃくちゃうまいだろって感じだったし、10人それぞれが非常に魅力的だった。
■ 余計な演出がない
さっきもちょっと触れたけど、テレビ番組にありがちな余計な演出がないのもいい(一部あるけど、それについては後で触れる)。
余計な音楽もないし、同じ場面をくりかえしたりもしない。制作陣が参加者たちに敬意を払っていることがうかがえる。
また、コンテスト形式ではあるが過剰に対決をあおってないのもいい。
参加者たちに勝ちたい気持ちはあるが、とはいえ彼らにとってお菓子作りはあくまで〝趣味〟なのだ。楽しむこと、自分の技術が上がることが第一で、勝ち上がることが最優先ではない。だから難しい技術にも果敢に挑戦するし、ときにはライバル同士助け合う。他の参加者にアドバイスを求めたり、作業を手伝ったり、道具を貸してあげたり。
このあたりも、テレビ番組だったら過剰に対決姿勢を求めちゃうんだろうなー。そうやってストーリーをつくった方が作り手としては〝仕事をした気〟になれるんだろうけど、見ている側はべつにそんなもの求めてないからね。素材のまんまでおいしいから。
なんかついついテレビ批判ばかりしちゃうけど、〝日本のテレビ番組じゃない番組〟を見ると、日本のテレビ番組がいかに凝り固まった思想にとらわれているかがわかるなあ。
■ 司会はダメダメ
余計な演出がないと書いたけど、唯一余計だったのが司会者のふたり。まあ脚本があるんだろうけど……。
まず坂井真紀さんが1話目の結果発表時に泣く。えっ、しらじらしすぎて気持ち悪いんですけど……。
関係性が深くなってからならともかく、たった数時間、料理をしているのを見ただけの人が退場するだけで泣くの……。会話を交わしたのも二言三言でしょ。この人の涙腺どうなってるのよ。これぐらいで泣いてたら常にポカリ飲んでないと脱水症状起こしちゃうよ。
この泣き真似が毎回あるのか、イヤだなあ、とおもっていたら、一話目で泣いてたくせに二話目以降はぜんぜん泣かない。どないやねん。なんで関係性深くなってからのほうが別れがつらくないんだよ。
あれかな。
「あの坂井さん、さっき泣くフリしてたじゃないですか。ああいうのほんとうちの番組にいらないんで二度とやらないでください。気の利いたコメントができないもんだから困ったら泣けばいいとおもっていた『探偵!ナイトスクープ』の西田敏行前局長じゃないんで」
と、きつめに注意されたんだろうか。だとしたら注意した人はえらい。
もっとひどかったのが工藤阿須加さん。まあこれは本人が悪いというより起用した人や演出を考えた人が悪いんだろうけど……。
いわゆる「スベリキャラ」の感じで出てくるのだが、これが痛々しい。つまらないジョークを飛ばしたり、意味不明なダンスを披露するのだが、肩に力が入っているせいで「一生懸命やっている」ことが伝わってきてちっとも笑えない。もっといえばやらされている感というか。
ぼくは本家英国版を見たことがないのだけれど、どうやらこれは本家のノリをそのまま持ってきたものらしい。だったら芸人にやらせるとか、他の人選があったんじゃないだろうか。下手な人のスベリ芸ほど見ていてつらいものはない。
彼が出てくるシーンだけ学芸会の空気になるんだよね。「拙いですけどあたたかい目で見守りましょう」という空気になる。
まあつまらないだけならまだいいんだけど、参加者が制限時間内に追われながら一生懸命作っている間にやる。そのたびに参加者は手を止めて学芸会を見てあげる(なにしろみんないい人たちだから無視できないのだ)。じゃまでしかない。
司会のふたりがちょいちょいうんちくなんかを披露するのも、にわか仕込み感が濃厚に出ていて哀れだ。審査員はプロ、参加者はアマチュアとはいえセミプロレベルなんだから、司会のふたりは素人に徹したらいいのに。「素人として、視聴者の代わりに質問をする」役であれば存在価値もあるとおもうのだが。
他の部分の演出が洗練されているだけに、司会ふたりの稚拙さ、もっといえば〝下手なくせにうわべだけうまい人のまねをしている感〟が鼻についた。
■ 味がわからない
これはもう番組である以上しょうがないんだけど、作ったものの味がわからないのが残念。見ている側もいっしょに審査したいのに! 「見た目がきれいか」と「おいしそうか」しかわからず、肝心の「おいしいか」がわからない。
だから審査結果を聞かされてもいまいち腑に落ちない。「見た目もきれいでおいしそうだったけど、食べたらおいしくなかったんです」と言われたら、こっちは「はあそうですか」と引き下がるしかない。
これはもう味まで伝えられる次々々々々々世代テレビの登場を待つしかないな。
ちなみにぼくが審査員だったら、抹茶が嫌いなので抹茶のケーキをつくってきた参加者には軒並み低い点をつけます!(そんなやつ審査員にさせるか)
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