2018年11月21日水曜日

きれいにするやつが汚い


歯ブラシの毛と毛の間に食べ物がはさまる。根本付近に緑色のものがはさまってる。
水圧で取ろうと蛇口の下にもってくる。とれない。
歯ブラシを掃除するためのブラシがほしい。歯ブラシブラシ。

そういえば小学校の掃除道具箱には、剣山みたいな形の「ほうきの隙間に詰まったごみを取るための道具」があった。なんて名前か知らないが。
あれのちっちゃいやつがほしい。


洗面所の排水口。
持ちあげてみるとすごく汚い。髪の毛やらぬめぬめしてる何者かやらがへばりついてる。
んげえ。
指先で取ろうとするがうまく取れない。ぬめぬめとした嫌な感触だけが手に移る。
ティッシュで拭こうとするが、ティッシュが破れるだけでやはりうまく取れない。
あーもう。何もかもが嫌になって、蛇口の下に持っていって水圧で流す。髪の毛やらぬめぬめやらがいっぺんに流れていく。
はじめからこの排水口部分いらなかったんじゃねえか。一回せきとめる必要なかった。


掃除機がくさい。
いろんなごみを吸いこんで溜めこんでいるんだもの。小さい虫を吸いこんだこともあった。
紙フィルタは捨てられるけど、ノズルやホースの部分にもいろんなものがくっついているのだろう。
ノズルとホースを風呂場に持っていって洗う。
いったい何をやってるんだ。こいつはきれいにするための道具なんじゃないのか。なんでぼくがこいつをきれいにしてやらなきゃいかんのだ。


2018年11月20日火曜日

走れシンデレラ


シンデレラは激怒した。必ず、かの城でおこなわれるパーティーに参加せねばと決意した。シンデレラには舞踏がわからぬ。シンデレラは床を拭き、継母や姉のために料理をつくって暮して来た。けれどもパーティーに対しては、人一倍に敏感であった。

「私は、ちゃんと炊事洗濯をする覚悟で居る。ただ――」と言いかけて、シンデレラは足もとに視線を落し瞬時ためらった。
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、夜十二時までの日限を与えて下さい。パーティーに出席したいのです。十二時までに、私はお城でダンスを踊り、必ず、ここへ帰って来ます」

「ばかな」と魔法使いは、嗄しわがれた声で低く笑った。「とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか」

「そうです。帰って来るのです」シンデレラは必死で言い張った。「私は約束を守ります。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、十二時の鐘が鳴りおわるまでにここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい」

それを聞いて魔法使いは、残虐な気持で、そっとほくそえんだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りの男を殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩やつばらにうんと見せつけてやりたいものさ。

「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。十二時の鐘が鳴りおわるまでに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。炊事も洗濯も、永遠にゆるしてやろうぞ」
「なに、何をおっしゃる」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ」



夜中十二時を告げる鐘が鳴った。
シンデレラは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。

若いシンデレラは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。途中、ガラスの靴が脱げるのもかまわず走った。

「待て。その人を殺してはならぬ。シンデレラが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た」と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄がれた声が幽かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼女の到着に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、徐々に釣り上げられてゆく。シンデレラはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、「私だ! 殺されるのは、私だ。シンデレラだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧りついた。群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。

佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「シンデレラ、君は、裸足じゃないか。早く靴を履くがいい」
シンデレラは、ひどく赤面した。


2018年11月19日月曜日

そしてスマホはすべる


スマートフォンを買い替えた。

新しいやつを一日使ってみた感想。
すべる。
すごくすべる。


スマホってこんなにすべるっけ。
すべらすアプリ入ってんのかってぐらいすべる。
物理の教科書に書かれていた「ただし摩擦はないものとする」がついに実現したのかと思うぐらいすべる。

本の上、クリアファイルの上、胸ポケットの中。
どこからでもすべる。ほんのわずかな傾斜があるだけですべる。
ゴルフ中継見てたらさ、グリーンでわずかに穴に入らなくて、あー残念惜しかったねって思ってたらぐんぐんぐんぐん転がって、穴から十メートルぐらい離れたところまでいくときあるじゃない。あれぐらいすべる。

傾斜なくてもすべるんじゃないかってぐらい。
カーリングで、あーもう止まるだろうなってとこからモップみたいなのでごしごしごしやって信じられないぐらいすべるときあるでしょ。あれぐらいすべる。

机の隅に置いていたはずなのに、ゆっくりゆっくりすべってどこかに行ってしまう。
気づいたら、あれ、こんなとこに置いたっけ、ってとこにある。
向かいのホーム 路地裏の窓 こんなとこにいるはずもないのに。

これを書いている今も、スマホはじわじわじわじわどこかに移動している。水平な机に置いているはずなのに。さては欠陥住宅か。ビー玉を置いてもわからないぐらいの微妙な傾斜も見つけてすべる。

すべりゆくスマホを目で追う。本の上から机の上、椅子をつたって床へと落ちる。フローリングの上をつるつるとすべるスマホ。
玄関まで行ってもまだ止まらない。外に出たスマホはマンションの廊下を通ってエレベーターの中へと。すべるように降下してゆくエレベーター。
外に出たスマホは歩道を通り、車道を横切り、駅のスロープをすべり、地下鉄に乗る。音もなくスマートにすべるスマートフォン。
終点の駅で降りたスマホはすべってすべってエレベーターに乗りこみ地上へ。外に出ると目の前に広がる海。そう、ここは海抜ゼロメートル。

スマホはすべり、海の中へ。
でも大丈夫。新しいスマホは完全防水仕様なのだ。
波に流され海流にのまれながらも、スマホは海底をすべりゆく。低いほうへ、低いほうへ。

すべり着いたのは太平洋の北西の海底。
大きな穴がぽっかりと口を開けている。世界で最も深い場所、マリアナ海溝だ。
スマホはすべり、穴にどんどん近づいてゆく。

だがわずかにはずれて穴には入らない。
あー残念惜しかったねって思ってたらぐんぐんぐんぐんすべって、穴から十メートルぐらい離れたところまですべってゆく。残念、ボギー。


2018年11月18日日曜日

新規開店花泥棒


本屋で働いていたとき、新規開店の手伝いをしたことがある。

いよいよオープン当日。
取引業者から開店祝いの花輪が届いたので、店の前に飾っておいた。


開店して、驚いた。
やってきたおばちゃんが花を勝手に持って帰ろうとしているのだ。
ひとりではない。おばちゃんたちが次々に花に群がる。まるで蝶、いや蛾のように。

えー。
泥棒!?

さほど実害のあるものではないが、しかし放置するわけにもいかない。
あわてて店長に報告した。

「あー、あれ。いいんだよ。そういう風習だから」

ぼくは知らなかったのだが、大阪や愛知あたりでは
「新規開店祝いのお花を持っていってもいい」
というルールがあるそうだ。
さらに「早く花がなくなったらその店は繁盛する」との言い伝えも。

そうだったのか……。知らなかった……。

とはいえ、おばちゃんたちが勝手に花を引っこ抜いて持っていく姿はなかなか衝撃的だった(「持って帰ってもいい?」と訊いてくれるおばちゃんもいたが、何も言わずに引き抜いていくおばちゃんもいた)。

勝手に持って帰ってきた花を飾って生活にうるおいがもたらされるのだろうかと疑問に思ったが、そういう風習なら仕方がないと、むしり取られてゆく花を呆然と見ていた。
なんて野蛮な風習の民族なのだろう。

わりと人通りの多い場所だったので、新しい店の入口を彩っていた数々の花たちは、開店から三十分もしないうちにすっかりなくなってしまった。

ぼくは小さな声で「逆に奪われて すべて奪われて 花泥棒 花泥棒~♪」と歌いながら、店先に散らばった花びらをほうきでかき集めた。

2018年11月17日土曜日

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