2016年7月11日月曜日

【読書感想文】施川ユウキ 『バーナード嬢曰く。』

施川ユウキ 『バーナード嬢曰く。1巻』

内容紹介 (Amazonより)
読むとなんだか読書欲が高まる“名著礼賛”ギャグ! 本を読まずに読んだコトにしたいグータラ読書家“バーナード嬢”と、読書好きな友人たちが図書室で過ごすブンガクな日々──。 『聖書』『平家物語』『銃・病原菌・鉄』『夏への扉』『舟を編む』『フェルマーの最終定理』……古今東西あらゆる本への愛と、「読書家あるある」に満ちた“名著礼賛”ギャグがここに誕生!!

ありとあらゆるものがマンガの題材になっている時代なのに、ありそうでなかった読書マンガ。

『名作小説をマンガにしてみました』とかはよくあるけど、「読書」について真っ正面から取り扱ったマンガは他に知らない。
読書もマンガも好きな人っていっぱいいると思うのにな。
ぼくもその一人だし。
読書ってのはものすごく内的な行為なのでマンガにしにくいのかもしれないね。動きもないし。


『バーナード嬢曰く。』は、内容紹介に「読むとなんだか読書欲が高まる」とあるとおり、本が読みたくなるマンガ。
熱を込めて「この本おもしろいよ!」って薦めているわけでもないのに。


本屋に行くと、「涙が止まらない感動巨編」って帯とか、「書店員が選んだ泣ける本No.1」みたいな安っぽいPOPが立ち並んでいるけど、ああいうのって本好きからするとへどが出るよね(書店でへどを出すと迷惑なんでこらえるけど)。

あれって本を読まない人、本の選び方を知らない人のためのものなんだよね。
本好きはあんなもので本を買わない。
ごく淡々としたあらすじだけで十分。何千冊も読んでいれば、自然と五十文字くらいのあらすじだけでおもしろい本を見抜けるようになる(はずれることも多々あるけど)。

たいていの文庫の巻末についている『他の文庫を紹介するコーナー』の魅力は、文庫好きなら誰もが知っているはず。



そんな『他の文庫を紹介するコーナー』みたいなおもしろさが詰まっているのが、『バーナード嬢曰く。』

あっさりした本の紹介と、軽めのギャグ。
まさに文庫目録のような軽妙さが心地いい。

このマンガで紹介されている本を読みたくなって、思わずマクニールの『世界史』とハインラインの『夏への扉』を購入してしまった(なにしろkindleで読んでいるので、あっという間に買えちゃうのだ。Amazonこわい)。


紹介されている本は、いわゆる『文学』だけかと思っていたら、ノンフィクション、ビジネス書、絵本、ケータイ小説など多岐にわたっている。
作者の好みが反映されているんだろう、SFにやけに比重が置かれているが。



このマンガのおもしろさのひとつは「読書家の本に対する姿勢」への言及。

読書家って、話題になっている本に対して素直な態度をとれないよね。
たとえば芥川賞をとった又吉直樹の『火花』。
本を好きな人ほど、あの本の扱いに困ってるんじゃない?

やっぱり「しょせんはタレント本でしょ」という気持ちもどっかにあるから、手放しでほめることはできない。
かといって全面的に否定するのも、芥川賞の歴史を軽んじてるようだし、そんじょそこらのにわか芥川賞ファンと一緒にされそうでイヤ。

結局、
「新人としてはスケールの大きい作品だが細かい点で粗も目立った。次回作に期待したい」
なんて、変に大上段にかまえた選考委員みたいなコメントをしてしまったりする。

あるいは、斜に構えて「おれは話題作とか読まないんだよね」みたいなスタンスをとってしまう(誰もおまえの読書傾向になんか興味ないっての)。
ぼくは完全に後者のタイプ。

そういう、本好きのひねくれたところをうまくギャグにしている。
特にSFファンからしたら「あるある!」なネタもたくさん。



ところで『読書好きがどういう評価をくだしていいか悩む作家 ダントツの第1位』である、村上春樹の名前がこの本には出てこない。

読書について語るなら村上春樹ははずせないだろう、あんなに評価の分かれる作家はいないんだから!


......と思っていたら、2巻では満を持して村上春樹に言及しているらしい。

いかん、2巻も買ってしまいそうだ。さすが「読むとなんだか本が買いたくなる」マンガ!


2016年7月10日日曜日

【思いつき】数字を使わずにね

「デジタルだと微妙な違いを表現できない」 みたいなことを云う人に訊きたいんだけど。 おまえは0.99と0.98の違いを、アナログ的に表現できるの?

2016年7月9日土曜日

【読書感想文】 エド・レジス 『不死テクノロジー―科学がSFを超える日』

エド・レジス『不死テクノロジー―科学がSFを超える日』

内容(「BOOK」データベースより) 人体冷凍保存、民間宇宙ロケット、スペース・コロニー、ナノテクノロジー、「心」の転送、人工生命、太陽の分解計画、星のリサイクル、反重力生成装置、タイム・マシンなどをめぐる、世紀末の「驚くべき物語アメージング・ストーリーズ」。

「最先端科学のさらに先をいく理論」の本。
「今の科学では実現不可能だけど、将来的にも不可能だとは立証されていないこと」に挑戦する科学者たちを紹介している。

サイエンス2割、伝記2割、SFが6割という感じ。
1993年に書かれた本だけど、内容はまったく古びていない。
なぜならこの本で予想されている未来は、まだぜんぜん実現していないから。

たとえば......。
 たとえばもしDNAサイズで、機械的驚異のミニロボットのような複雑な機械を作れたらどうだろう? そのミニロボット(ドレクスラー)は、物質の分子一個一個、あるいは原子一個一個をあつかえるほど小さいものにする。そしてこのアセンブラーを内蔵のプログラムで操れるとしたら、実にめざましいことがやってのけられるにちがいない。彼らは原子を並べて積み重ね、化学的に可能な限りの構造を作り、こっちの思いどおりの物質を合成してくれるだろう。また構造上安定した形なら、どんな形にでも物質の分子を置くことができるから、人間が築きたいと思っているものは何でも作れるはずだ。そもそも彼らにできないことなどあるだろうか?
作り方はこう。
小さなロボットを作る。
そのロボットには「自分と同じ動きをする、自分より小さなロボットを作る」というプログラムを組んでおく。
すると、ロボットがひとまわり小さなロボットを数体作り、そのロボットがもっと小さなロボットを数体作り……となって、ナノサイズの動きを制御できるロボットが大量にできあがる。

このロボットは分子単位の操作ができる。鉄を金にすることはできないが(原子が違うから)、炭素をダイヤモンドにすることは可能かもしれない(同じ炭素原子からできているから)。

分子を並び替えることによって、牛がいなくても牛肉がつくれる。
金属の分子を並び替えることによって車も宇宙船もつくれてしまう。
そうなると、生産のための労働は不要になる。

このナノロボットを使えば細胞レベルで治療ができるから、ガンもあっという間に治せる。
それどころではない。
人間を冷凍保存して、数万年後に解凍する。解凍時に破損した細胞はナノロボットで治せるから、未来旅行もできてしまうのだ。

おお。
バラ色の未来。
しかもこれってそう遠くない未来にできそうなことだよね。
ひょっとすると百年後には実用化してるんじゃないかっていう気もする(『不死テクノロジー』によると、もう未来での復活を信じて冷凍されている人はたくさんいるんだって。復活した人はまだいないみたいだけど)。

星新一ファンのぼくからすると「冷凍保存して未来の世界に生まれ変わったら、そこは現代よりもずっと退屈な世の中だった」というシナリオしかイメージできないけど……。



ただ、この本で描かれる未来の技術は、こんなもんじゃない。
SFだとしても「ありえない」ぐらいの未来を、本気で信じている人がいる。

「宇宙へ出ていって、コロニー(居住空間)をつくる」方法を模索している人たちの話。
 オニールの描く植民地は「宇宙基地(スペース・ステーション)」ではなく、どちらかといえば「小さな世界」なのだ。つまりミニ地球だと思えばよい。ただ違うところは、巨大な岩である地球の外側の地表に住む代わりに、人工居住地の内側に住むところだ。とはいってもこの人工地球は、現在の地球と同じぐらい安楽にできているのである。人工重力からはじめ、住宅地、学校、病院、公園、湖、小川、農場、高層建築、船、橋にいたるまで、人が要りそうなものは何でござれ、すべて備わっている。山脈だって全体がすっぽり入ることだって考えられる。あたかもマンハッタン島全部にアディロンダック山脈 [ニューヨーク州北東部にあり、アパラチア山脈の一部をなす] の一部を足してクルクル丸め、両端にふたをした円筒のようなものである。そしてその円筒は、月と地球とのあいだを、安定した軌道にのってフワフワと漂っているのだ。
なんて壮大なスケールの空想……。
「99.9999%失敗するだろ」としか思えない無謀な試み。
でも、その「0.0001%」に挑戦してきた人がいるからこそ、今、人類が宇宙に進出できてるわけだしね。
ライト兄弟が有人飛行に成功するまでは、「人間を乗せて空を飛ぶなんて理論上不可能だ」と科学者にすら思われていたそうだ。
そう考えると、宇宙コロニーもありえないことではないのかも。ひょっとするとあと百年くらいで形になっているのかもしれないね。



それにしても感心するのは、この本に出てくる科学者たちの、科学への全幅の信頼と、底抜けのポジティブさ。
 だが考えてみれば、これはひょんな意味合いで利にかなっているのである。なぜならこの地球自体に重大な欠点があることを疑う者があるだろうか? そもそも地球と言う天体は、定期的に火山の噴火、地震、津波、洪水、疫病、ペストなど、ありとあらゆる天災に悩まされているではないか。これにひきかえ人工居住地なら、そのようなやっかいな問題はいっさいない。そういうものはすべて設計上しめだしてしまうことができるからだ。もう母なる自然なんぞという気紛れなものに、翻弄される心配はない。スペース・コロニー(宇宙植民地)の環境自体が隅の隅まで念入りに計画され、コントロールされるからには、ある意味で自然というものはなくなってしまうわけだ。汚ない煙を吐く工場もなく、スモッグもなく排気ガスもなく、大気を汚すものは居住地域にはいっさい入れないのだから、産業汚染などは過去のものである。それは地上の天国、いやそれに近いものになるはずなのだ。
「地球環境を守って住みよい地球にしよう」と皆が話しているときに、
「じゃあ地球なんて捨てて別の居住地を作っちゃえばいいじゃん!」という発想。
発想の次元がちがいますよね。
もう楽観的というか、傲慢というか......。

彼らからすると、地球は「ただ偶然に固まっただけの欠陥品」で、「現在のバージョンの太陽系はエネルギー効率が悪い」。

ぼくみたいな常識にとらわれたつまんない考えしかできない人間からすると、ただもう呆然とするばかり。
太陽を分子加速器の巨大なリングのなかに入れて絞りあげ、太陽を分解して必要なエネルギーを取りだそう、なんてアイデアが出てくるに及んでは、もう完全についていけない……。

そんな中、ぼくが「これはもうすぐ実現するんじゃないかと思ったのは、「心の転送」というアイデア。

人間の情報、思想、記憶なんてものはすべて情報だから、これらすべて読み取り、情報記憶装置に移すというもの。
人間の脳内のデータをすべてコンピュータに移植するってことだね。
こうすれば移動(転送)も容易なので、宇宙旅行もかんたん。死ぬこともないし、万が一のデータが消失してしまうという事態に備えてバックアップをとっておくこともできる。
 理論的にはコンピュータの中にいたところで、今まで古い肉体の中でしたのとまったく同じ経験ができるはずなのである。ただ一つ違うのは、今や君は現実そのものの代わりに、現実のシミュレーションを経験しているところだ。もっと正確には、現実のシミュレーションではあるが、異なった種類のシミュレーションを経験しているのだというべきかもしれない。なぜならモラヴィックの考えでは、君の元の体が与えてくれたのもシミュレーションにすぎなかったからだ。脳が感覚器官から伝わってきたデータを統合して作った精神構成概念も、やっぱりシミュレーションなのである。
これができれば、もう宇宙コロニーも必要なくなるよね。
一ヶ所にいながらにして何でもできちゃうんだから。

これはひょっとするとあと十年くらいでできちゃうんじゃないかな。
脳内で起こっていることを解析する研究はどんどん進められていってるし、データを保存するサーバーは今でもあるし。

いや、ひょっとするともう実現してるかも。
たとえば火星や金星には(我々が思うところの)生命体は存在しないけれど、たとえばただの電気信号だけの存在となって思考したりコミュニケーションをとったりしているやつらがいるとか……。

2016年7月5日火曜日

【エッセイ】手のひらに ほくろができたら 病院へ(不健康川柳)

手のひらにほくろができた。

「足の裏にほくろができたら要注意」と聞いたことがある。
悪性のガンだった場合、歩くたびにそれが刺激され、どんどんガンが進行してしまうのだとか。


じゃあ手のひらはどうなんだろう。
足の裏ほどではないが、手のひらだって刺激の多い部位だ。
病院に行ったほうがいいのだろうか。
でも「たかがほくろで……w」と、医者に鼻で笑われそうな気がする。


こわくなってきたのでインターネットさんに訊いてみる。

「手のひら に ほくろ が できた が 大丈夫か いや 大丈夫でしょうか」
と入力して検索。


すると、占いのサイトばかりが出てきた。

求めていた情報とはちがう。
健康関連のサイトを見たかったのに。

が、ひとまず安心する。

占いをする余裕があるということは、健康でいられるということだもんな。
ガンで余命半年の人は、自分の将来を占ってもらったりしないもんな。たぶん。


せっかくなので占いのサイトを見てみる。
ほくろがひとつできただけでも、その位置によっていろいろ意味が変わるらしい。

たしかに、東シナ海に小島がひとつできただけでも、それが日本領海内にできたのか、中国領海内なのか、公海なのかで大きくアジア情勢が変わるもんな。
そういう話じゃないか。


ほくろができたのは手のひらのなかでも、手首に近い位置。
この位置のほくろは、「運動機能の低下」をあらわしていると書いてあった。

さらには「内臓の不調かも。病院に行ったほうがいい」とまで書いてあった。

なんだよー!

結局病院案件かよー!


2016年7月2日土曜日

【エッセイ】あたしが超能力者を嫌いな3つの理由


あたしは超能力者の連中が大嫌いだ。
心の底から毛嫌いしているといってもいい。


あたしが超能力者に対して嫌悪感を抱いているのには、3つの理由がある。
これを読めば、きっとあなたも、この怒りを理解してくれるだろうう。


1. すぐに心を読む


超能力者の連中ときたら、すぐにこちら脳内にアクセスしてきて、考えていることをのぞきみようとしてくる。

超能力者のやつらは、気づかれてないと思っているんでしょうね。
でもいっておきますよ。非超能力者からしたらバレバレですから!

すごくやらしい顔をして見てくるから、「あっ今こいつ心を読もうとしているな」ということがまるわかり。

こないだも電車のなかで、ちらちらこっちの心をうかがってるやつがいたの。
読まれないようにガードかけてやったら、あわてて「読んでませんよー」みたいな顔で目をそらしてやんの。
バカみたい。

好きでもない人に心をのぞかれるのはセクハラでしかない。
ほんと気持ちが悪い。
痴漢と、心を読んでくる超能力者は、社会の害悪でしかないですからっ!

ついでに言うと、直接心の中に話しかけてくるやつも、びっくりするからやめてっ!



2. マナーが悪い


超能力者のせいで何度危ない目にあったことか。

たとえば、念力っていうの? 離れてる場所にある物を動かすやつ。

地面に落ちていたタバコの吸い殻が急に浮き上がって、そのまますーっと灰皿まで飛んでいく。

あれ、超能力者からしたら善行のつもりなんでしょうね。
「ポイ捨てされた吸い殻拾ってる俺かっけー」ってな気分なんでしょう。

でも、周りからしたらびっくりするし、危ない。
火がついたままだったらどうすんのよって思う。
念力が狂って子どもに当たったらどうすんのよって思う。

ポイ捨てと念力、ほんと嫌い。

たまに、へたなくせに念力使うやついるでしょ。
そういうやつにかぎって、手で動かせばいいようなものを念力で動かしたりするのよね。

制御できてないのか知らないけど、オーラっていうの?あれがこっちまで飛んでくることがあって、あぶなっかしくてしょうがない。
飛び散ったオーラのせいで何度あたしのスプーンを曲げられたことか。




3. 己の超能力をやたらと自慢してくる



何度か超能力者と合コンしたことがあるんだけど、あいつらってほんと鼻持ちならないのよね。
なにかというと非超能力者を下に見てくる。

超能力者の何がイヤって、素直じゃないとこ。

「まあ一応サイコキネシスとテレポートぐらいならできますけど......」
とかいうでしょ。

なにが「まあ一応」よ。
自慢に思ってることがミエミエですから!

まだ素直に自慢してくるほうがマシ。

なんでか知らないけど、超能力者って絶対に「おれ苦労してるんだぜ」ってのをアピってくるでしょ。

ここで、あたし的『超能力者がよく言うセリフ ベスト3』を発表します!


第3位
「空なんか飛んだって疲れるだけでいいことなんかひとつもないよー」


第2位
「未来なんかお予知できないほうが幸せだったなって思うんだよなー。
 非超能力者は未来に対してわくわくできてうらやましいわ」


第1位
「非超能力者のほうが何倍も努力してるからね。尊敬するわー」


「あー、あるある」って思ったでしょ。
超能力者ってすぐこういうこと言うでしょ。

自虐のつもりかもしれないですけど、非超能力者からしたら自慢でしかないですよー!
せっかく心が読めるんだから、その発言がうざがられてることに気づいてくださーい!