2017年9月15日金曜日

未来が到来するのが楽しみになる一冊/ミチオ・カク『2100年の科学ライフ』

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『2100年の科学ライフ』

ミチオ・カク(著) 斉藤 隆央(訳)

内容(e-honより)
コンピュータ、人工知能、医療、ナノテクノロジー、エネルギー、宇宙旅行…近未来(現在~2030年)、世紀の半ば(2030年~2070年)、遠い未来(2070年~2100年)の各段階で、現在のテクノロジーはどのように発展し、人々の日常生活はいかなる形になるのか。世界屈指の科学者300人以上の取材をもとに物理学者ミチオ・カクが私たちの「未来」を描きだす―。

科学者たちの 未来予想が好きだ。読んでいるとわくわくする。
エド・レジス 『不死テクノロジー ―― 科学がSFを超える日』もおもしろかった(→ 感想文はこちら)。宇宙空間に人工的な地球をつくるという奇想天外な話なのに、まじめに研究をしている頭のいい人に理論を説明されると「もうすぐできるんじゃないの?」という気がする。

ほんの20年前は、1人1台携帯端末を持っていてその中に電話もカメラも電卓も図書館もゲーム機も財布もテレビもウォークマンもビデオデッキも新聞も収まっているなんてまったくの夢物語だった。それが実現した今となっては、人工地球がなんぼのもんじゃいと思える。
なにしろ『2100年の科学ライフ』によると、1台のスマートフォンは月に宇宙飛行士を送ったときのNASA全体を上回る計算能力を持っているらしい。それぐらいすごいスピードで科学は進歩しているのだ。つまりこのスマホがあれば月に行けるってこと? ちがうか。




『2100年の科学ライフ』は、物理学者であり、科学解説者としても知られるミチオ・カク氏が、最先端のテクノロジーや各分野の専門家の話をもとに「現在の最先端」「近未来(20年後ぐらい)」「世紀の半ば(2030~2070年ぐらい)」「遠い未来(21世紀後半)」の科学技術を大胆に予想したものだ。
「現在の最先端」を読むだけでも、そんなことできんの、すげえ! と思うことしきり。まして50年以上も先の話なんて。
まるでSFなんだけど、それでもこの中のいくつかは実現するんだろうなあ。中には予想より早く叶うものもあるんだろう。

専門的になりすぎず、かといって素人くさくもない、ちょうどいいレベルの解説。
理論だけの話ではなく、過去のエピソード、SF映画や小説、さらには神話からの引用までちりばめられていて、読み物としてもおもしろい。ちゃんと取材にも足を運んでいるし。
いやあ良書だ。訳もいいし。


もう目次を見るだけで興奮する。
  • 四方の壁がスクリーンに
  • 心がものを支配する
  • トリコーダーとポータブル脳スキャン装置
  • サロゲート(身代わり)とアバター(化身)
  • 老化を逆戻りさせる
  • われわれは死なざるをえないのか?
  • 恒久的な月基地
ぞくぞくするよね?
しない? あっ、そう。20世紀へのお帰りはあちらですどうぞ。


目次だけじゃない。内容も刺激に満ちあふれてる。

ボタンひとつですべてがモニターになる壁面スクリーン。壁紙を1秒でかけかえられる。モニターを丸めて持ち運べる。

強力な磁場を作る技術がタダ同然になり、輸送に革命が起きる。
あらゆる物体に小型の超電導チップを埋め込むことで、思念するだけで物体を動かすことができる。

自由自在に変形できるロボット。形を変えたりばらばらになったりしてどんな隙間にも入れる。

分子サイズのマシンを使った治療。癌細胞をピンポイントで殺すことができる。

遺伝子工学を使って二酸化炭素を大量に吸収できる生物を作りだすことで地球温暖化を解消。

核分裂ではなく核融合によるエネルギーを生み出す。安全かつ強力。カップ1杯の水から80,000キロリットルの石油に相当するエネルギーを取りだせ、廃棄物はほとんど出ない。
言ってみれば実験室で太陽を作るようなもの。

核融合を使って化成の氷を溶かし、南極で繁茂している藻類を持ちこんで火星をテラフォーミング(地球化)する。

超小型サイズのナノロケットを大量に宇宙に送り(コストは非常に小さい)、さまざまな惑星に到達したナノ探査機が自己複製をして、また別の星へと飛び立っていく。


どや、現代人たち。これが未来やっ!!




いいニュースと悪いニュースがある。

まずはいいニュースから。医療問題、環境問題、エネルギー問題。あと何十年かしたらすべて解決している。地球の未来は明るい。イエーイ!
悪いニュースは? その時代にぼくらの大半が生きてないってこと。
この本を読むとそんな気分になる。あーあ、もっと後の時代に生まれたかったなあ!
ずっと健康でいられてあんまり働かなくてもいい時代に生きたかった(『2100年の科学ライフ』ではそんな時代の到来を予言している)。


昔から科学はずっと発展しているわけだけど、科学の進歩をもっとも妨げているものは何かっていったら、人間の身体という制約だろう。

椎名誠のエッセイにこんな話があった。
とても頑丈なダイバーズウォッチを買った。水深数百メートルの水圧でも壊れないという。これはいい買い物をしたと思っていたが、よく考えたら水深数百メートルまで潜ったら人間の身体がぺしゃんこになってしまうのだからその性能は意味がないということに気がついた……。

このように、科学の進歩に人間の身体は追いつけない。
人間の身体は壊れやすいから乗り物は重厚にせざるをえないし、出せるスピードにも限界がある。身体的制約があるから宇宙や深海に行くのもたいへんだ。知識を蓄えた天才科学者だってたった数十年したら死んでしまう。

この先、科学が進めば進むほど身体がじゃまになるのではないだろうか。
医療技術が発達して病気は早期に治療ができて長生きできるようになったとしても、遺伝子改変で強固な肉体を手に入れたとしても、生物である以上限界はある。

だから、この本で予想されている技術の中で、いちばん実現しそうなのは、機械の身体をつくってそこに自分の全人格をインポートするというテクノロジーではないだろうか。
『不死テクノロジー』にも同じ未来予想図があった。
人間の脳というのはすごく高度なものでコンピュータで同等のものをつくることは当分不可能らしい(今の最先端でも虫の脳程度だそうだ)けど、身体のほうはそこまで優れているものではないのだろう。
もしかしたら我々が生身の身体を捨てる時代が、今世紀中にも到来するかもしれない。




人は科学のみにて生くるにあらず。

『2100年の科学ライフ』では、科学の進化がもたらす経済や政治の変化までも予想している。
「今後も残る仕事、ロボットにとってかわられる仕事」「2100年のある1日をバーチャル体験」など、21世紀後半まで生きる人にとってはたいへんありがたいコンテンツも盛りだくさん。

未来が到来するのが楽しみになる一冊だ。冷凍冬眠しよっかな。
明日の朝起きたら未来になってないかなー(ちょっとだけなっとるわ)。


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