2017年7月27日木曜日

まとめサイトはプロパガンダに向いている/辻田 真佐憲 『たのしいプロパガンダ』【読書感想エッセイ】

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辻田 真佐憲 『たのしいプロパガンダ』

内容紹介(Amazonより)
本当に恐ろしい大衆扇動は、娯楽(エンタメ)の顔をしてやってくる!

戦中につくられた戦意高揚のための勇ましい軍歌や映画は枚挙に暇ない。しかし、最も効果的なプロパガンダは、官製の押しつけではない、大衆がこぞって消費したくなる「娯楽」にこそあった。本書ではそれらを「楽しいプロパガンダ」と位置づけ、大日本帝国、ナチ・ドイツ、ソ連、中国、北朝鮮、イスラム国などの豊富な事例とともに検証する。さらに現代日本における「右傾エンタメ」「政策芸術」にも言及。画期的なプロパガンダ研究。



プロパガンダ
特定の考えを押しつけるための宣伝。特に、政治的意図をもつ宣伝。
(「大辞林」より)

先日友人と話しているときに「プロパガンダ+(国名)」で画像検索するとおもしろい、という話になった。
特におもしろいのはロシアとアメリカ。東西の双璧だっただけあって、プロパガンダにかけている力もすごい。
いや逆に、プロパガンダに成功したからこそ大国になれたのかもしれない。
この本を読むと、うまくいっている組織というのは広報の持つ力を理解しているのだな、と思う。

プロパガンダというと、政治色の強いポスターを作って攻撃的な音楽を流して拡声器でスローガンを連呼して……というようなイメージがあるが、そんなものでは誰も見向きもしない。成功しているプロパガンダとはたのしいものなのだ、というのが『たのしいプロパガンダ』の主張だ。

プロパガンダというと、政府や軍部が作って一方的に国民に押しつけたと思われがちだが、実際はそんな単純ではなかったのである。現に民間企業は利益に敏感で、満洲事変や日中戦争が勃発するとさっそく「愛国歌」「国策映画」「愛国浪曲」「愛国琵琶」「国策落語」「軍国美談」などと冠した、時局便乗的な商品を続々と売り出していった。今では考えられないが、当時の日本では戦争といえば、領土が増え、国威が上がる輝かしい歴史が想起された。そのため、「勝った、勝った」と煽る商品が出てきてもまったく不自然ではなかった。
 これに対して、政府や軍部はときに後援や推薦をしてお墨付きを与え、ときに発禁処分や呼び出しなどを行って規制し、自分たちの都合のいいように民間企業の商品をコントロールしようとした。

たとえば、今では戦争のイメージとはまったく無縁のタカラヅカ(宝塚歌劇団)も、『太平洋行進曲』など戦争を扱った芝居を上演して、積極的に戦争を応援していた。
しかも、序盤はコメディ調にして観客を飽きさせないようにし、中盤からシリアスな戦闘シーンに教訓めいたセリフを乗せていたというから、かなり巧みなプロパガンダだ。これも軍に強制されてやっていたわけではなく、「こういうものがウケる」から作られたものだ。


アメリカでも同様で、今では平和の象徴のようなディズニー映画でも、戦時中は敵国を批判・揶揄するような物語が作られていた。

以下、ドナルドダック主演の『総統の顔』という作品の内容。

 映画の内容は、ドナルドダックがナチ・ドイツを模した「狂気の国」で暮らしているというもの。ドナルドダックは朝から壁に掲げられた肖像画に向かって、「ハイル・ヒトラー! ハイル・ヒロヒト! ハイル・ムッソリーニ!」と挨拶させられる。そして貧しい朝食もそこそこに、『わが闘争』の読書を強要され、軍需工場の労働へと駆り出されてしまう。
 工場の作業は、チャップリン監督・主演の映画『モダンタイムス』よろしくベルトコンベアーで運ばれてくる弾丸を次々に組み立てるというものだが、たまに弾丸にまじってヒトラーの肖像画が流れてくる。すると、ドナルドダックはその都度、肖像画に「ハイル・ヒトラー!」と叫ばなければならない。この様子は実に滑稽で、今でも見る者の笑いを誘う。
 そして過酷な労働に、ドナルドダックは次第に精神に変調をきたし、兵器が飛び交うサイケデリックな幻覚を見る。ここの映像はディズニーのアニメとは思えないほど、おぞましいものがある。ところが、その途中で目が覚める。なんと、以上の光景は夢だったのだ。ドナルドダックは部屋に飾られた自由の女神の模型にくちづけし、米国の自由を讃えて終幕となる。
 主題歌「総統の顔」は劇中に何度も使われ、その特徴的なメロディは観賞者の耳を離さない。


今この内容を見ると「なんちゅうストーリーだ」と思ってドン引きだけど、当時のアメリカ人はこれを観て笑っていたのだろう。
今の日本人だって「北朝鮮はネタにしていい」って風潮があって国家首席を小ばかにした冗談をあたりまえのように口にしているけど、50年後の日本人が見たら「隣国である北朝鮮をあからさまにばかにするなんて、当時の日本人はなんてはしたない人たちだったんだ」と思うかもしれないよね。



『たのしいプロパガンダ』では、戦時中の日本やナチス時代のドイツから、現代の北朝鮮、ISIL(イスラム国)、オウム真理教などのプロパガンダの手法が紹介されている。
……というと「プロパガンダというのはヤバい国家・団体が使うものだな」という印象を持たれるかもしれないが、そんなことはない。どの国だってやっているし、逆にうまくやっている国ほど巧みすぎてそれが宣伝活動だと気づかれないほどだ。

もし今日本が戦争をするとしたら、まちがいなくAKB48あたりはまっさきにプロパガンダに起用されるだろうね(今でもプロデューサーは国家権力と近い位置にいるし)。
若者のイメージを変えるのがいちばん手っ取り早いし、そのためには人気のアイドルやミュージシャンを使うのが効果的だから。

政治でもプロパガンダは巧みに利用されている。
たとえば大手まとめサイトのいくつかはある政党と結びついていると言われている。噂でしかない事実かはわからない。でもその手のサイトを見ると、たあいのないニュース記事や笑えるネタに混じって、かなりの割合で特定の政党を非難する記事が掲載されている。
『世界のおもしろ動画』や『ネコの決定的瞬間をとらえた写真』みたいな記事の間に『××党の××が「××」とバカ丸出しの発言』なんて政治主張の強い記事が唐突にはさまれるのはぼくから見たらかなり異様なのだけど、違和感なく「そうか、××はバカなのか」と鵜呑みにする人もいるんだろう。
まとめサイトって、都合のいい主張だけを恣意的に並べることで、さも「いろんな意見があるけど××だけは共通認識である」かのように見せることに向いているから、プロパガンダに適しているよね。
それが〇〇党が密かにやっていることなのか、それとも〇〇党の支持者が勝手にやっていることなのかはわからないが、少なくとも誰かが社会情勢を誘導しようとしていることはまちがいない。

プロパガンダ=悪と単純にはいえないけど、「あー今誘導されそうになってるな」って自覚はしといたほうがいいね。
楽しいものほど要注意。



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