2016年11月14日月曜日

【エッセイ】なぜ誰もがマネキンに欲情するのか

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仕事で疲れたとき、ぼくはちょっと遠回りして、女性用下着売場の前を通って帰ります。

誤解のないように云っておきますが、ぼくは女性の下着そのものに興奮するようなヘンタイではありません。

そんなヘンタイではなく、下着を身につけた“マネキン”に魅力を感じるタイプのヘンタイなのです。


下着なんてものはしょせんただの布っきれです。

女性用下着には興味がないのでブランドとかはまったくわかりません。
ワコールだかトリンプだかピーチジョンだかチュチュアンナだか知りません(ほんとまったく知らない)。
物質として見ればどれもハンカチと大差ありません。

そんなものに性的な興奮をおぼえる人が世の中にはいるみたいですが、まったくどうかしています。


ただ、マネキンが身につけたとたん、下着はぐっと魅力を増します。
ぼくは下着マネキンにかぎらずマネキン全般が好きなので、アウターをまとったマネキンや、紳士服売場のマネキンもよく眺めます。

服には頓着しない性質なので、衣料品売場を通るときは服よりもマネキンを見ている時間のほうが長いぐらいです。知らず知らずのうちにマネキンのポーズを真似ていたりもします。

「服は着せやすいかもしれないけどやっぱり頭のないマネキンは魅力半減だな」とか

「イトーヨーカドーにある赤いマネキンにはえもいわれぬ気持ち悪さがあるな」とか

「あのマネキンのポーズは空条承太郎以外の人がやってるの見たことないな」とか

そんなことばかり考えてしまいます。



そんなマネキン好きのぼくから見ても、やはり女性下着を身につけたマネキンには、ずばぬけて心を惹く魅力があります。

下着売場のマネキンはどうしてあんなに美しいのでしょう。

下着を最高にきれいに見せるために造られたものだから、といってしまえばそれまでです。
しかしやはりそれだけでない気品をあのマネキンたちは持っています。

見た目の美しさだけでいえば、どの人間よりもマネキンのほうが上だと断言できます。
たとえばニッセンとかディノスなどのカタログには、下着を身にまとった外人モデルさんの写真が載っています。
当然ながらスタイルはばつぐん。顔もきれい。ポーズも完璧。光のあてかた、写真の構図に至るまで、下着がもっとも美しく見えるよう計算されつくしています。

それでも。
それでもなお、西友の下着売場のマネキンに遠く及ばないのが現実です。


なにしろマネキンときたら、やせすぎず太りすぎない絶妙のプロポーションに、陶器のような白い肌(いろんな色のマネキンがあるけどぼくは #FFFFFFのような純白が好き)。

ポーズも、洋服屋のマネキンのようなこれ見よがしな格好はしておりません。下着売場の彼女たちはあくまで慎ましやかに、けれどもきりりと背中を伸ばして胸を張り、凛とした自信をのぞかせています。

それにマネキンには生身の人間とちがってほくろもシミもありませんし、背中の変なところから毛が生えたりもしていません(美人のうなじに生えた変な毛はそれはそれで魅力的なのですが、これについて語りだすと長くなるので今はやめときます)。

そして何よりいいのは、マネキンには顔がないということ。

いいですか。
顔がないということは、裏を返せば、そのとき自分が見たいと思う表情を思い描けるということ。
想像力によって描かれた顔は無限通り。

いうなれば、マネキンは千の仮面を持つ少女。おそろしい子!

のっぺらぼうほどセクシーな表情はありません。



それほど魅力的なマネキンですが、ぼくは決して凝視したりはしません。
こっそりと見るだけです。それも、一瞬。

やはり下着売場にあからさまに目を向けるのは気恥ずかしいですし、女性客だって下着を選んでいるところをおじさんに見られるのはいい気がしないでしょう。
ですから通路を歩きながら、周囲に人がいないときを見計らって、横目でちらりと目をやるだけです。

そのかわりといってはなんですが、ぼくがマネキンを見るときは顔を不自然につくったりはしません。

自分の顔を見ることはできませんが、マネキンを見るときのぼくはきっとひどくいやらしい顔をしていると思います。
あえて隠しません。
実際にいやらしい気持ちを抱いているのにいやらしい顔をしないなんて、かえって品性が汚らしいと思いませんか。
どうせマネキンにしか見られていないのですから。

美しいマネキンの前では嘘をつけませんし、嘘をつきたくもありません。


「いやらしい顔をしたっていいんだよね」

ぼくはちらりとマネキンの顔を窺います。

「そう、いいのですよ。だってそれがあなたなんですもの」

ほら、マネキンののっぺらぼうな顔もちゃんとそう答えてくれているではありませんか。




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