2015年10月8日木曜日

【エッセイ】犬と赤子に関しては勝手にさわってもよいものとする

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 何が嫌いって、散歩中のよその犬を勝手にさわるおばちゃんほどいやなものはないね。

 今朝のこと。
 小型犬を連れた女の人が信号待ちをしてた。
 そこへやってきたおばちゃん。
 あたしだってダテに55年も生きてないから何でも知ってるわよ、知らないのは恥と遠慮だけ、って顔したおばちゃん。
 おばちゃん、小型犬に向かって
「あっららぁぁかぁわいぃワンちゃんねぇい」
って語りかけながら犬の頭に手を伸ばした。
 当然のように。
 もう、ほんと当たり前の顔をして。
 普通の女の人だったら、自分のケツさわるときでももうちょい遠慮するぜ。
 ってぐらいの当然顔だった。

 あれ、なんなんだろうね。
 犬と赤子に関しては勝手にさわってもいいってルール。
 おばちゃんってすぐさわるでしょ。
 飛び上がってバスケのネットさわらずにはいられない小学生かって。
 いつ制定された?
 そのルール。
 小動物にかぎりさわってもいいルール。
 歴史の授業中は寝てたからあんま知らないんだけど、ヴェルサイユ条約で決まったんだっけ? ハンムラビ法典? ヤルタ会談? ドラフト会議?

 かわいいかったら他人のものを勝手にさわっていいわけ?
 だったらおれだってさわっちゃうよ。
 おたくの18歳の娘さんかわいいですね、つって。
 かゆいところございませんか、つって。
 指紋つくぐらいべたべたさわっちゃうよ、もう。
 指紋つきすぎて鑑識のハマさん呼ばれるぐらいさわっちゃうよ、もう。
 いやでしょ、ぜんぜん知らない人に自分の持ち物さわられんの。
 誰だよあんたうちの犬さわらないでよってなるでしょ。
 誰だよ鑑識のハマさんてってなるでしょ。

 そんなこと考えながらおばちゃんに気の向くまま風の吹くままさわられゆく犬を眺めてたらね。
 あるんだね、奇跡って。

 おばちゃんにさわられそうになった犬が。
 それまでおとなしく信号待ちをしていた小型犬が。
 突然狂ったように吠えはじめた。
 もうほんと恐ろしい勢いの咆哮だった。
 激怒。マジ激怒。
 火がついたように怒るって言葉があるけど、ほとんど出火してた。
 江戸の街だったら「安政の大火」とかって名前がついて文献に名前刻んじゃうぐらいの燃えさかりよう。
 すげえって思った。
 万物の創造主すげえって思った。
 神が犬をお造りになってから幾万年。
 すべては神の思し召しのままだとしたら、今日、まさに今ここで、小型犬が吠えるようにプログラミングしたわけでしょ。何万年も前に。神が。
 完璧。
 タイミング完璧。
 神がかってる。ていうか神。

 そんでおばちゃんは逃走。
「あらあらあらあらごめんごめん」
って言いながら走って逃げた。
 人間としての尊厳なんて微塵もなかった。
 まあ無理もない。
 人生において、あんなに激しく誰かから怒られることなんかまずないもん。
 むかし引っ越しのバイトしてたときに、みんなででっかいピアノ持ちあげて運んでる最中に
「すみません、もう無理です!」
って叫んで手をピアノから離したやつがいて、
その後そいつはチームリーダーから叱られ死するんじゃねえのってぐらい叱られてたけど、そんとき以来。あんなに怒られてる人見るの。

 でも小型犬も存外しつこくて、おばちゃんが横断歩道の向かう側に渡ったあともずっとおばちゃんの方に向かって吠えてんの。
 もう事件性感じさせちゃうくらいの吠えっぷり。
 鑑識のハマさん再登場しちゃうんじゃねえのって思ったもん。
 さすがにもう許してやれよって思った。
 おまえまだ怒ってんのかよって。
 おまえいつまで目を血走らせてんの王蟲かよ早く腐海に帰れよって。
 もうおばちゃんだいぶ遠く行っちゃったぞ。
 犬の視力だとそろそろ見えなくなる距離だろうよ。
 ご自慢の嗅覚を頼りに怒ってんじゃないよと。

 ほんと、ずうっと怒ってる。
 ドラゴンボールだったら、悟空がフリーザまっぷたつにして地球に帰ってきたのにまだ怒りのスーパーサイヤ人になってるぐらい、怒りが長期政権化しちゃってる。
 ずっと怒ってると読者にそっぽ向かれちゃうよ。
「悟空いつまでスーパーサイヤ人化してんのマジウザインデスケド」とか掲示板に書かれちゃうよ。
 看板漫画だからってあぐらかいてたらすぐに打ち切られちゃうよ。
 ジャンプ編集部は容赦ないよ。

 ってメッセージを小型犬に向かってテレパシーで発信しつづけたんだけどね。
 ぜんぜん届かない。
 所詮、犬。
 所詮、小型犬。
 いつまでも鳴きやまないからだんだん腹立ってきてね。

 小動物にかぎり勝手に頭はたいてもいいってルールできねえかな、ホント。


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