2015年5月24日日曜日

ぬるぬる短歌

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小学校のプールの底はぬるぬるだった。

夜中のうちに用務員さんがたっぷりの山芋をすりおろしてプール底にトロロでも塗っているのかと思うほど、ぬるぬるだった。
ぼくの人生において、あれほどのぬめりけを味わったことは他にない。

特にプールの中央部がぬるぬるしていた。
何かの拍子に底に足をつくと、ぬるぬるに足をとられて水中なのにずっこけそうになった。
どこかにひきずりこまれそうな恐怖感もあったが、日常生活では味わえないそのぬるぬるがぼくは好きだった。


だがあるとき、級友からショッキングな話を聞かされた。
「プールの底のぬるぬる、あれ鼻水が溜まったやつやねんで」

それが事実なのか、ぼくは知らない。
だけど、やっぱりあれは鼻水なのだろうと思う。なぜなら二十年間そう信じてきたから。

風邪気味のときでも、プールで泳いだ後は鼻がすっと通るようになっているのが何よりの証拠だ。風邪気味のときはプールで泳いではいけません。

だが、ひょっとしたら鼻水だけではないのかもしれない。鼻水だけではあれほど大きなぬるぬるのコロニーを築くことはできないように思う。
あのぬるぬるは鼻水だけではなく、よだれとか胃液とか血液とか、その他諸々のあらゆる体液のかたまりなのではないだろうか。

そういえばプールで泳ぐ前、泳いだ後、先生たちは執拗に人数を数えていた。
二人一組でペアを組んで、ペアの相手がちゃんといるかを確認させられたりもした。
裏を返せば、それだけプールで泳いでいるときに行方不明になる児童が多いということではないか。

溺れて沈んだ生徒が、ふやけて薄い肉と、もっと薄い皮だけの存在になる。血や鼻水は水に混じるでも分離するでもなく、水底にべったりとはりついている。
それがプールのぬるぬるになるのだ。
 
「盛る夏 行方不明の級友が
       プールの底に沈んでぬるり」

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